<青空>
大先輩の学習 後押し
2009.03.17 北海道新聞朝刊全道 32頁 二社


 もうすぐ「卒業生」を送り出す。

 札幌学院大三年の蛸井大夢(たこいひろむ)さん(21)。自主夜間中学「札幌遠友塾」で、生徒の勉強を補助するスタッフを務め、この春、丸三年を迎える。

 生徒は、戦後の混乱の中、家庭の事情などで学齢期に学ぶ機会を失った高齢者らが中心だ。蛸井さんにとって祖父母のような年齢。なのに、字が読めない、足し算や引き算ができない人がいる。当初、そんな現実が信じられなかった。

 授業は毎週水曜夜、札幌市教育文化会館の一室で行われる。問題用紙を前に、鉛筆を持つ手が止まってしまうお年寄りがいる。「大丈夫! いける、いける」。机の横にしゃがみ込み、蛸井さんが声をかける。生徒の目元がふっと緩む。

 「分かったよ」「なるほどね」。そう言われた時ほどうれしいことはない。生徒は人生の大先輩。休憩中、体験談を聞くこともある。教える。教えられる。そんな交流がある。

 五年前、道内の工業高等専門学校(五年制)に入ったが、理系が合わず三年で中退。再挑戦で大学を受験した。だから、「勉強を理解できないつらさや切なさが、身にしみて分かる」。

 大学の非常勤講師の勧めでスタッフになった。引っ込み思案だった生徒が堂々と勉強の成果を発表する時、「やってよかった」。素直に思う。

 卒業式は十八日。十六人が塾を去る。「泣かないつもりだけど、我慢できるかな」。きゅっと、口元を引き締めた。

(本庄彩芳)