自主夜間中・遠友塾 札幌市が教室提供

2009年04月20日 朝日新聞

向陵中学校に準備された札幌遠友塾の「教材置き場」前で、同中の小原善孝教頭(右)と打ち合わせをする遠友塾の工藤慶一代表。看板は同中の教諭らの手作り


■満願の春 校舎で授業
■在校生ら学ぶ喜び新た


 戦争や病気、家庭の事情などで学校に行けなかった人たちのため、90年に道内で初めて開設された民間団体「札幌遠友塾自主夜間中学」(工藤慶一代表)が今年度から、札幌市立向陵中学校(植村敏視(としみ)校長、札幌市中央区)の教室を使って授業が出来るようになった。これまで市側に教室使用を求めてきたが、創立20年目の春に実現にこぎ着けた。22日には同中で入学式がある。工藤代表(60)は「長年の希望がやっとかなった」と喜んでいる。  (植村隆)

 遠友塾は設立から17年間は市民会館を使い、その後は市教育文化会館を使用してきた。年間の使用料は約60万円。一方、同中の使用料は「年間10万円以下の見込み」(市生涯学習推進課)で、受講料も月1500円を新年度から千円に値下げする。

 工藤代表によると、数年前から市側に口頭で公立中の教室使用を求めてきた。06年8月には日本弁護士連合会が公立夜間中の増設や自主夜間中を運営する民間団体への援助などを求める意見書を政府に提出。これを基に工藤代表は07年5月、市などに文書で(1)公立夜間中を札幌に開設(2)自主夜間中運営の民間団体に対する教室提供や財政支援―などを要望した。

 市側も協力姿勢を見せ、昨年の夏休みなどに向陵中など2校で試験的な授業が実現。塾側は、同中が地下鉄東西線西28丁目駅のすぐそばで交通が便利なことなどから、年間を通じての使用を希望した。

 さらに同年10月の同中創立60周年記念の公開授業に工藤代表がゲストとして参加したこともあり、同校の生徒や教員の理解も深まり、教室の正式使用が決まった。

 一方で公立夜間中学校設立について、市は「需要を長期的にどこまで見込めるかの検証を今後さらに進める」(上田文雄市長)との姿勢にとどまっている。

 工藤代表は「最近は旭川や函館、釧路でも自主夜間中ができた。こうした中で、今回はじめて札幌で公立中の教室使用が認められたのは大きな進歩だ。さらに道内に自主夜間中を増やし、センター校の役割を担う公立夜間中の札幌での開設を目指したい」と話す。

 向陵中側も遠友塾に好意的だ。教諭らが「遠友塾」と彫った木製の看板を二つ手作りし、遠友塾の受講生らが使う「新玄関」や「教材置き場」に掲げた。

 遠友塾の授業は毎週水曜日の夜間。5月13日から同中3年生の教室四つを使う。今年度の新入生は、10代後半から80代までの約30人。約60人の在校生と合わせ、90人が新しい学舎(まなびや)で学ぶことになる。

 「本物の学校」での授業に在校生たちも喜びを隠せない。車イスで通う同市厚別区の伊藤フサ子さん(61)は「生まれつきの脳性小児マヒで、家も貧しく学校に行く機会がありませんでした。学校の机で勉強するのが夢でした。校門をくぐって通学できるということがとてもうれしい」と弾んだ声で言う。

 向陵中の小原善孝教頭(50)は「遠友塾には、全日制に対する定時制というような形で使ってもらう。交流も進めたい。遠友塾の皆さんから、わが校の生徒たちも学ぶことが多いと思います」と話している。

http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000000904200007