◎企画【わたし学びます】〜函館遠友塾(2)〜/須藤君子さん(61)

 北斗市久根別に住む須藤君子さん(61)は民間で運営する自主夜間中学「函館遠友塾」への通学をきっかけに、学校に行ってないことを周囲に話せるようになった。

 「それまでは人に隠して卑屈になっていた。オープンにしたら気が楽になりました」。その穏やかな表情からは、これまでの苦悩を推し量ることはできない。

 漢字が書けない、学校を卒業していない。自分を苦しめてきたコンプレックスを、少しずつ乗り越えようとしている。

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 1948年、七飯町大中山生まれ。5歳の時に父が病死した。女手一つで農家を続け、3歳年上の兄と自分を育てていた母親が、小学4年の時に脳溢血(いっけつ)で倒れて半身不随になった。家計のため、自分から学校に行かなくなった。勉強があまり好きではなく、友達との間で何か嫌なことがあったのも理由だった。

 田植えや種まき、草刈り、収穫など慣れない農作業に励み、周囲の大人の協力もあり、何とか生活していけた。学校から先生が迎えに来たり、母に諭されもしたが、たまに教室に顔を出すと勉強についていけず、足は遠のいた。通学する友達の姿から目をそらした。いつしか学校のことは一切考えないようになっていた。

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 遠友塾の「遠」。空に浮かぶ「雲」。いつも聞いている「歌」。遠友塾の国語の授業で漢字の筆順を教わる度にうれしさが込み上げる。筆順通りだと字がきれいに書けるのだ。今まではほとんど自己流だった。

 「書き順が正しいとこんなにも違うんだ」。漢字練習帳の小さな1マス1マスは、そんな大きな驚きで埋まっている。数学は九九程度までしか分からない。遠友塾の授業はテンポが早く、計算問題を大量に解かねばならない。ユーモアたっぷりのスタッフの説明に時折笑いながらも、「ついていくのに必死なの」と恥ずかしそうに漏らした。でも、学ぶことを選んだことに後悔はない。(新目七恵)

函館新聞 2009/11/23