◎企画【わたし学びます】〜函館遠友塾(3)〜/外山禮子さん(80)


 民間が運営する自主夜間中学「函館遠友塾」スタッフは全員ボランティア。元教員もいれば主婦や学生もいる。教科書があるわけではなく、授業は担当スタッフが独自に教材を用意する。例えば理科では、「電気の働き」として電池を使ったモーターカー作りに挑戦している。


 塾生の外山禮子さん(80)は「何かにつけて参考になる」とうれしそうにほほ笑む。なじみの顔ぶれに会えるのも楽しみの1つ。遠友塾という“学び場”は塾生とスタッフの大切な居場所になっている。


  ◆1928年、函館生まれ。9人きょうだいの3番目。当時の函館常磐小から高等科に進んだ。学校には通ったけれど、何を学んだかは覚えていない。戦時教育の時代、1クラス50人、教科書は近所で貸し借りした。卒業前、先生に「教室の生徒で横浜の軍需工場に行く人が1人もいない」と言われ、思わず手を挙げた。14歳、都会へのあこがれからだった。好奇心を胸に、青函連絡船で海を渡った。


 18日の遠友塾、社会科のテーマは「裁判員制度」だった。塾生数人が裁判長や陪審員、被告人役になり、スタッフの用意した台本に沿って模擬裁判に挑戦した。外山さんを含む残りの塾生は裁判員役だ。


 被告の男性は窃盗(ひったくり)などの罪に問われている。しかし、「やってません」と無実を訴えた。証人もいる。約50分間の模擬裁判が進み、判決の時がきた。


 「無罪だと思う人?」。スタッフが塾生に問うと半数余りが手を挙げた。残りは有罪を選び、ほぼ意見が分かれた。


 裁判長役の塾生がマイクに向かって言った。「判決、無罪!」。「わぁ!」と喜びの声が上がった。無罪を選んだ外山さんも思わず手をはたいた。スタッフが続けた。「有罪にした塾生は不満でしょう。これが本当の裁判だったらどうしますか」―。


 その日、札幌市では道内初の裁判員裁判が行われていた。そのニュースを目にする度、自分自身に問い直すようになった。ただの丸暗記ではない、「学び」を実践している。(新目七恵)


函館新聞 2009/11/24
http://www.hakodateshinbun.co.jp/topics/topic_2009_11_24.html