◎企画【わたし学びます】〜函館遠友塾(5)〜/浅川美津子さん(77)

 香ばしい香りが漂う函館市若松町の市総合福祉センター調理室。トントントンと、小気味よい包丁の音が響く。炊きあがったばかりのご飯の湯気が、ふわっと広がる。

 民間が運営する自主夜間中学「函館遠友塾」では月1回、給食が用意される。準備するのはスタッフだが、塾生数人も応援に駆け付ける。その1人が市内西旭岡町に住む浅川美津子さん(77)だ。

 「調理が好き。だから手伝いたいの」。人懐っこい笑顔を見せ、手慣れた様子で野菜を切る。



 1932年、函館生まれ。6人きょうだいの2番目。北洋漁業の船乗りだった父は子煩悩で、漁から戻る度によく仕事場の船に連れて行ってくれた。通った函館青柳小は名門だったが、自分は勉強が嫌いだった。6年間通い高等科を卒業した後、友達に誘われて当時の旭中校舎2階で行われた女子商業学校定時制に進学した。簿記などを3年間習ったが、教室でじっとしているのが苦手で、学校に行かない時期もあった。学ぶ喜びを当時はまったく感じなかった。



 遠友塾の給食作りは授業の約4時間前、午後1時ごろから始まる。メニューは予算に合わせてスタッフが考え、材料を買ってくる。ご飯と汁物程度だが、前日からスタッフが仕込んだり、塾生が差し入れたたくあんが添えられるなど、たくさんの手間と愛情が詰まっている。

 小柄な浅川さんは調理場を機敏に動き回り、手早く作業を進める。半年余りがたち、給食担当スタッフとの息はぴったり。あっという間にスタッフと塾生の約80人分が出来上がる。

 完成した料理は次々と塾生の待つ部屋に運ばれる。授業開始前、塾生は「いただきます」と一斉にあいさつして味わう。「家で1人で食べるよりおいしい」「給食なんて何十年ぶりかしら」。喜ぶ他の塾生の声が心地良い。友達とわいわい食べるご飯のうまさは格別だなぁと思う。(おわり)(新目七恵)

函館新聞 2009/11/26