質問主意書


質問第一一号


夜間中学に関する質問主意書


右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。


  昭和五十一年五月四日 1976年5月4日)


塩 出 啓 典   



       参議院議長 河 野 謙 三 殿



   夜間中学に関する質問主意書


一 第二次大戦後、新制中学が義務制となつたが、戦後の混乱期でもあり、受入れ体制が整わなかつたこともあつて、経済的貧困家庭の子弟の中に、多くの義務教育未修了者がでた。これらの人達が、今日中学校の夜間学級(以下「夜間中学」という。)に多く集まつている。戦後の義務教育未修了者は、一説には数百万人ともいわれている。

 これらの義務教育未修了者に、義務教育を受ける機会を積極的に提供することは、国の当然の責任であると考えるが、これに対する政府の考えをききたい。


二 夜間中学は昭和二十四年以来、今日に至るまで、消長はあつたが各地で継続し、現在、全国で二十六校、二千二十三名の生徒がいる(昭和五十年五月一日現在)。文部省はその実態について毎年調査を行つているようであるが、その結果については内部資料にとどめ、学校基本調査等に発表していない。教育施策の検討のためにも、政府はこの資料を公表すべきではないか。


三 行政管理庁は、昭和四十一年に、夜間中学の早期廃止を勧告している。学齢該当者が、夜間に義務教育をうけねばならない状態は、もとより好ましくないことであり、政府は各方面との協力により、これの解消に努めることは当然である。

 しかし、現在の夜間中学の生徒は、義務教育の年齢を超えている人達がほとんどであり、これらの人達は、夜間中学以外に、中学校教育を受けるところはない。

 したがつて、政府は夜間中学の充実、普及にさらに努めるべきではないか。また夜間中学に関する特別措置を法制化する考えはないか伺いたい。


四 現在、夜間中学には、中国や韓国等からの引揚げ者、中南米移民子弟で帰国したもの等が、他に適切な日本語研修施設がないために通学しており、一部の夜間中学では特別に日本語学級を設置しているが、一般の夜間中学生と机をならべている例も少なくない。これらの人々の日本語教育もまた行政の責任であり、教育の効果を考えるならば、各地に、中国語、朝鮮語、ポルトガル語等各国語のわかる指導者を配した日本語研修センターの設置が必要と考えられる。政府は、この問題についてどのような方針で対処するのか伺いたい。


  右質問する。

答弁書


答弁書第一一号


内閣参質七七第一一号


  昭和五十一年五月十四日


内閣総理大臣 三 木 武 夫   



   参議院議長 河 野 謙 三 殿


参議院議員塩出啓典君提出夜間中学に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員塩出啓典君提出夜間中学に関する質問に対する答弁書


一について


 国勢調査報告による未就学者数については、昭和四十五年度では、全国で五十七万二千九百七十九人となつており、昭和三十五年度の同調査の百四十二万五千六百人に比し、大幅に減少している。また、年齢別にみると、六十五歳以上の者が三十六万六千人余と総数の六十三パーセントを占めている。

 不幸にして家庭の貧困その他の理由により、今まで義務教育の課程を修了することができなかつた者については、学習意欲がある限りは、これを尊重して学習の機会についての配慮がなされなければならないと考える。

 ただ、これらの義務教育未修了者は年齢や職業等により、学習の目的や必要とする教育の内容等がさまざまであるので、それぞれの実態に即し、通信教育等も含め幅広く教育の機会が得られるようにすべきであると考えている。


二について


 中学校夜間学級の実態については、文部省において毎年各都道府県教育委員会を通じ調査を行つているところであるが、その結果の概要は、関係都道府県教育委員会、各市区町村教育委員会、各中学校に送付するとともに、関係者等の求めがあつた場合には、これを配布するなどしており、関係者等の利用に十分供されていると考える。


三について


 義務教育としての中学校は、すべての国民が学齢期に中学校へ昼間に通学し、勉学すべきものであつて、文部省としては、この考え方の下に各種の施策を通じ、その徹底を図つているところである。

 学齢期にある者が中学校の夜間学級に通学することは、義務教育の性格や教育の効果等の点で好ましくないと考え、行政管理庁の勧告の趣旨をも勘案して、就学奨励の充実や長欠対策の徹底等の各種の施策により、中学校へ昼間に通学できるよう努力してきたところである。

 学齢期を過ぎた者の中学校の夜間学級における勉学については、現実に中学校を終えておらず、しかも勉学の意思を持つ国民がいる以上、中学校夜間学級の果たしている役割は評価されなければならないと考えている。


四について


 中学校夜間学級における引揚者等に対する日本語教育については、在籍者の多くが十五歳以上三十歳以下であつて、学歴もさまざまであり、また、教員も特別な指導技術を有する者でなく、教育課程も中学校の教育課程の範囲で実施するので非常に困難な点が多い。

 しかし、相当数の引揚者等が中学校夜間学級に在籍し、東京都内の四つの中学校夜間学級には特に日本語学級が設置されている等の事実にかんがみ、引揚者等に対する学習指導に関する調査研究、課外の日本語指導の実施等を委嘱する経費を予算措置している。また、従来から、中学校夜間学級における日本語教育については、外国人に対する日本語教育一般の振興に関する各種の事業を応用し、関係者に対し、教材の提供、教員研修会への受入れ等により協力援助を行つてきている。

 御指摘のような施設を設けることについては、対象となる引揚者等の住所が全国的に分布し、しかも職業、生活との関係もあること等からみて、引揚者等に関する問題全般との関連を考慮しつつ、慎重に検討すべきものと考えられる。