夜間中学 学びの喜びを支えたい

 自主夜間中学が、道内各地で次々に開校している。戦後の混乱や家庭の事情などで、学校に通えなかった人たちが学ぶ。

 生徒は70歳以上のお年寄りが多い。「勤労奉仕や子守で十分に学べなかった」「畑仕事をしなければならなくて、小学5年生までしか学校に行けなかった」−。学びを中断した事情に、戦争や貧困が影を落とす。

 困難を抱えながらも「字を覚えて、孫に手紙を書きたい」「割り算ができるようになりたい」と熱心に教室に足を運ぶ。

 学びを再開させるのに年齢は関係ない。苦難の人生を歩んだ末に、なお基本的な知識を身につけたいと学ぶ姿は光り輝いている。

 先生役はボランティアだ。運営はどこも厳しい。国や道、市町村には学ぶ喜びを守り、育てるための十分な支援策を求めたい。

 夜間中学は戦後、空襲で焼け出された子供たちを対象として夜間に授業を行ったのが始まりとされる。

 管理や競争にとらわれずに学ぶ個性豊かな人々を描いた山田洋次監督の映画「学校」で、その存在を知った人も多いのではないだろうか。

 道内では1990年に自主夜間中学「札幌遠友塾」が開校した。お年寄りばかりでなく、不登校だった若者が学び直す場にもなっており、これまでに400人近い卒業生を送り出している。

 昨春は旭川で「旭川遠友塾」が開校。今春は函館、釧路でも自主夜間中学が活動を始めた。

 全国には東京、大阪など8都府県に35校の公立夜間中学があるが、北海道には1校もない。

 道内関係者は、各地に広がってきた自主夜間中学のセンター校の役割を持つ公立夜間中学を札幌に開設するよう求めている。

 日本弁護士連合会は、公立夜間中学の増設や自主夜間中学への援助を求める意見書を国に提出している。

 学齢期に学ぶ機会を失った人たちの教育を受ける権利を保障するためにも、道や札幌市は、早急に公立夜間中学の設置を検討すべきだろう。

 札幌遠友塾は、以前は市民会館の会議室などで授業をしてきたが、今春から市立向陵中学の教室を借りて授業ができるようになった。

 一歩前進といえる。真剣に学ぶ多様な経歴の人たちを身近に知ることは、中学生たちにとってもかけがえのない体験となるはずだ。

 札幌以外の市でも地元中学の教室を使えるようにしてほしい。

 夜間中学の取り組みは、人間が生涯かけて学ぶことの意義を教えてくれる。地域社会もその活動を温かく見守り、支えたい。

2009/06/09 北海道新聞 社説
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/170311.html