学齢期に修学することのできなかった人々の

教育を受ける権利の保障に関する意見書



2006年8月10日



日本弁護士連合会




目 次


第1 意見の趣旨‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1


第2 意見の理由‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1


1 はじめに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1


2 夜間中学の概要‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1


3 義務教育未終了者の概要‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥4


4 義務教育未修了者の教育を受ける権利の内容及び義務教育


未修了者のカテゴリー毎の検討‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥5


5 実施されるべき施策‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥17


6 おわりに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥21




第1 意見の趣旨


 国は、戦争、貧困等のために学齢期に修学することのできなかった中高年齢者、在日韓国・朝鮮人及び中国帰国者などの多くの人々について、義務的かつ無償とされる普通教育を受ける権利を実質的に保障するため、以下の点を実施すべきである。


  義務教育を受ける機会が実質的に得られていない者について、全国的な実態調査を速やかに行うこと。


 上記の実態調査の結果をふまえ、


(1)  公立中学校夜間学級(いわゆる夜間中学)の設置の必要性が認められる地域について、当該地域を管轄する市(特別区を含む。)町村及び都道府県に対し、その設置について指導及び助言をするとともに、必要な財政的措置を行うこと。


(2)  その他の個別のニーズと地域ごとの実情に応じ、@既存の学校の受け入れ対象者の拡大、Aいわゆる自主夜間中学等を運営する民間グループに対する様々な援助(施設の提供、財政的支援等)、B個人教師の派遣を実施することなど、義務教育を受ける機会を実質的に保障する施策を推進すること。



第2 意見の理由


1 はじめに


 本意見書は、全国夜間中学校研究会、自主夜間中学生徒やスタッフ、公立夜間中学校生徒・卒業生や教職員・文化人らが、各都道府県及び各政令指定都市に1校以上の夜間中学を設置することなどを求め、当連合会人権擁護委員会に対し、人権救済申立をしたことを契機として、学齢期に修学することができなかった人々の教育を受ける権利の保障について調査・研究した結果を踏まえ、意見を述べるものである。


  夜間中学の概要


(1)  夜間中学の定義


 夜間中学とは、公立中学校夜間学級の略称である。以下においては、便宜上、公立中学校夜間学級を夜間学級又は夜間中学と表記することがある。なお、有志が公民館などで自主的に運営するいわゆる自主夜間中学はこれに含まれない。


 夜間中学とは「生活困窮などの理由から、昼間に就労または家事手伝い等を余儀なくされた学齢生徒等を対象として、夜間において義務教育の機会を提供するため、中学校に設けられた特別の学級」(1985年1月22日付けの中曽根康弘内閣総理大臣の答弁書(以下「内閣総理大臣答弁書」という。)による)である。



(2)  夜間中学の開設


 現在のいわゆる6・3制の義務教育は、1947年に発足したものであるが、このころは未だ戦後の混乱期であり、貧困などにより就学できない生徒が数多く存在していた。東京都や京都府の一部の中学校においては、学籍を有するにもかかわらず、貧困のために昼間は就労せざるを得ないことから、学校を長期にわたって欠席する生徒が増加し始めた。

 かかる状況を座視しえなくなり、昼間は就労している生徒のため、夕刻から夜間の授業を行う中学校が出現するに至ったものであり、これが夜間中学の端緒である。


(3)  夜間中学の法令上の根拠等


 夜間中学の法令上の根拠


 市(特別区を含む。以下も同じ)町村教育委員会から都道府県教育委員会への届出事項(学校教育法施行令25条)中に、「二部授業を行おうとするとき」(5号)が掲げられており、これが夜間中学の法令上の根拠であるとされている。


 すなわち、法令上は、市町村教育委員会の裁量により、二部授業を実施するかどうかについて決定できる仕組みとなっており、内閣総理大臣答弁書によれば、夜間学級は、市町村教育委員会が地域や学校の実態等諸般の実情を勘案の上、その必要があると判断した場合に設置するものとされている。


  夜間中学の学級編成及び教職員定数の措置


 夜間学級を置く公立中学校の学級編成については、当該学校を設置する市町村教育委員会が行うが、毎学年、あらかじめ、都道府県教育委員会と協議し、その同意を得なければならないとされている(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律4条及び5条)。


 そして、上記の学級編成に基づき、公立中学校の教職員定数が措置されるところ(同法6条ないし9条)、都道府県教育委員会が、公立中学校の教職員を任命するものとされている(地方教育行政の組織及び運営に関する法律37条)。


  国の財政的措置


 国は、夜間学級を含む公立中学校の教職員給与費等について、義務教育費国庫負担法により、その実支出額の3分の1を負担することとされている。


 また、建物建築費については、上記の学級数等に応じて、義務教育諸学校施設費国庫負担法により、原則としてその3分の1を負担することとされている。



(4)  夜間中学の現況


 学校数及び在籍者数


 夜間中学は、前記のとおり、貧困のため昼間の修学が困難とされた生徒のために開設されたが、1954年ころの87校をピークとして漸次減少を続け、2005年4月現在では全国で8都府県35校となっている。設置数が最も多いのは11校の大阪府で、次いで東京都が8校、神奈川県が6校、奈良県が3校、広島県が2校、兵庫県が3校、千葉県が1校、京都府が1校となっている。総在籍者数は2005年9月現在で2587名である。


 在籍者は、大別して、@中高年齢者、A障がいのある人、B中国帰国者、C在日韓国・朝鮮人及びD15歳以上の新渡日外国人(いわゆるニュー・カマーの外国人)の5つのカテゴリーに分類される。


  クラス編成等


 当連合会人権擁護委員会が大阪市立天王寺中学校夜間学級を訪問調査した結果によれば、同校の2003年度の生徒は265名であり、9クラスが編成されているところ、日本人103名のほか20か国出身の外国人が学習しており、生徒のニーズに応じて以下のようなクラス編成がされている。


@  Aコースは「促進コース」とされ、中国帰国者や新渡日外国人などを対象として、日本語の習得を中心とする授業が実施されている。


A  Bコースは「基礎コース」とされ、在日韓国・朝鮮人、障がいのある人で就学免除・猶予を受けた者、「促進コース」から移行した者などを対象として、主に小学校程度の授業が実施されている。


B  Cコースは「標準コース」とされ、戦争、貧困等のために学齢期に修学できなかった中高年齢者、障がいのある人で就学免除・猶予を受けた者などを対象として、中学校程度の授業内容が実施されている。


 在籍者の負担


 全国夜間中学研究会作成「公立夜間中学校の実例調査のまとめ」(2002年3月1日調査)によれば、夜間中学が不足しているため、在籍者は、次のような負担を強いられていると報告されている。


()  通学のための転居


 夜間中学に通学するために転居した例として、1991年4月から2002年4月までの間に以下のとおり報告されている。


 すなわち、福島県、宮城県、群馬県、茨城県、佐賀県、神奈川県及び静岡県から東京都への転居が10例、長崎県及び三重県から大阪府への転居が6例、和歌山県から兵庫県への転居が1例、福岡県から広島県への転居が1例である。


 これにより、夜間中学の在籍者は、転居による費用の支出や生活基盤の変更などの経済的負担を強いられているとも報告されている。


()  通学時間


 また、夜間中学の数の不足は、在籍者に長時間の通学の負担を強いているとも報告されている。


 すなわち、1992年9月から2002年5月までの間の通学時間の例では、片道2時間が4例、1時間半が54例あった。


 この点、夜間中学がない埼玉県では、20名が片道1時間半から2時間かけて東京都内の夜間中学に通学していると報告されている。


 このように、夜間中学の在籍者は、遠距離通学のための交通費の支出などの経済的負担を強いられているとも報告されている。


  義務教育未修了者の概要


(1)  義務教育未修了者の人数


 前記のとおり、夜間中学には、義務教育未修了のまま学齢を超過した者が多く在籍しているところ、このような義務教育未修了者の数は、全国夜間中学校研究会等によれば、戦後の新学制での義務教育中退者数126万6631人、就学免除者25万735人、旧制での義務教育未修了者数8万8203人の総合計160万5569人である。


 他方、内閣総理大臣答弁書によれば、義務教育を修了していない者の数は、学校基本調査、国勢調査報告等を基に推計してみると、約70万人程度(ただし、病弱等の理由により就学猶予・免除とされた者も含まれる)であるとされている。


  もっとも、これらの義務教育未修了者について、政府による実態調査は行われていないところ(2003年3月26日参議院文教科学委員会での矢野重典文部科学省初等中等教育局長の答弁)、当連合会の2003年12月22日付け文書による照会に対する2004年1月21日の文部科学省からの電話による回答(以下「文部科学省電話回答」という。)も、実態調査の必要性はないとして、15歳以上の全国民を対象としたアンケート調査に類するものを行うことや、国勢調査を利用することも考えていないとしている。


 このように、そもそも、義務教育未修了者の人数についての正確なデータが存在しない上に、文部科学省にはこれを積極的に調査しようとする姿勢がないのが現状である。


(2)  義務教育未修了者に対する既存の学校の受入体制等


 内閣総理大臣答弁書及び文部科学省電話回答によれば、原則として、市町村教育委員会は、学齢を超過した義務教育未修了者をその設置する公立小・中学校に受け入れる法的義務はないが(学校教育法22条、29条、39条、40条)、これらの者についても、学習意欲のある限りは、これを尊重して学習の機会について配慮がされるべきであると考えており、学校の収容能力や施設、設備等の状況が許す範囲内において、小・中学校に受け入れているところであるとされている。


 このように、義務教育未修了者が学習の機会を得られるようにする配慮が必要であるとしながらも、国は、これを法的義務として捉えておらず、積極的に施設・設備の拡大等の対応を採る方針を示していない。


  義務教育未修了者の教育を受ける権利の内容及び義務教育未修了者のカテゴリー毎の検討


(1)  義務教育未修了者の教育を受ける権利の内容


 憲法における教育を受ける権利の内容


()  憲法26条は、1項において、「すべての国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と規定し、2項において、「すべての国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は無償とする」と規定する。


 上記の規定は、「国民各自が、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること」を含意しており、「福祉国家の理念に基づき、国が積極的に教育に関する諸施設を設けて国民の利用に供する責務を負うことを明らかにするとともに、子どもに対する基礎的教育である普通教育の絶対的必要性に鑑み、親に対し、その子女に普通教育を受けさせる義務を課し、かつ、その費用を国において負担すべきことを宣言したものである」と解されている(いわゆる旭川学力テスト事件に関する最高裁1976年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照)。


 このように、憲法26条は、国民各自が学習権を有していることを前提として、国家に対して合理的な教育制度と施設を整え、適切な教育の場を提供することを要求する権利を保障しているものである。


()  このような憲法26条を受け、教育基本法3条1項は、能力に応じた教育の機会均等を保障し、同条2項は、国及び地方公共団体に対し、能力があるにもかかわらず経済的理由によって修学困難な者に対する奨学方法を講ずべきことを規定する。


 また、教育基本法10条2項は、教育行政について、教育の目的を遂行するために必要な諸条件の整備確立を目標としなければならないと規定している。


()  他方、憲法26条2項の「普通教育」については、教育基本法上、「9年の普通教育」とされているところ(同法4条1項)、学校教育法は、小学校・中学校の目的としてそれぞれ「初等普通教育」・「中等普通教育」を掲げるとともに(同法17条、35条)、それぞれの修業年限を6年・3年と規定し(同法19条、37条)、いわゆる6・3制の無償の義務教育を定めている。


()  以上のとおり、憲法等が保障する教育を受ける権利とは、国民が自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有することを前提として、国に対して合理的な教育制度と施設を通じて適切な教育の場を提供することを要求する権利であり、教育の機会均等といわゆる6・3制の無償の義務教育を要請しているものである。


 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という)及び子どもの権利条約における教育を受ける権利の内容


()  社会権規約13条は、締約国は、教育についてすべての者に権利を認めると規定し、その教育を受ける権利の内容として、義務教育及びこれを無償のものとすべきことを定めている。


 また、同規約14条は、無償の義務教育の漸進的な実施のための行動計画の策定を締約国に義務付けている。


()  子どもの権利条約28条1項は、締結国は、教育について子どもの権利を認めるものとし、この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するために、初等教育を義務的かつ無償とすること、中等教育の発展を奨励し、それが全ての者に利用可能となるよう国の財政的援助などの措置を採るべきことを規定している。


 教育条件整備義務についてこの具体的な条項が定められることにより、子どもの権利条約を批准している日本政府は、その義務遂行に全力を傾注すべき義務が生じたということができると解されている(三上昭彦ほか編『子どもの権利条約実践ハンドブック』参照)。


  義務教育未修了者の教育を受ける権利の内容


()  上記のとおり、憲法や国際人権法においては、教育を受ける権利の保障の内容として、義務教育及びこれを無償のものとすべきことが規定されているところ、前記の旭川学力テスト事件に関する最高裁大法廷判決が指摘するとおり、人が人としてその人格を形成し、発展させていくためには、教育を受ける権利が保障されること、とりわけ、学習する権利が充足されることが必要不可欠である。


 現代の日本においては、普通教育を受けることができなかったとすれば、人間関係の形成や就職等の社会・経済生活のあらゆる場面において著しいハンディを背負うことになるものであり、その人格の完成が阻害されるであろうことは、容易に認められるところである。


()  この点、1985年3月29日の第4回ユネスコ国際成人教育会議で採択されたユネスコ学習権宣言は、次のとおり述べている。


 「学習権は、未来のためにとっておかれる文化的贅沢品ではない。それは、生き残るという問題が解決されてから生じる権利ではない。それは、基礎的な欲求が満たされたあとに行使されるようなものではない。学習権は、人間の生存にとって不可欠な手段である。」


 「もし、世界の人々が、基本的な人間の欲求が満たされることを望むならば、世界の人々は学習権を持たなければならない。もし、女性も男性も、より健康的な生活を営もうとするなら、彼らは学習権を持たなければならない。もし、わたしたちが戦争を避けようとするなら、平和に生きることを学び、お互いに理解しあうことを学ばねばならない。『学習』こそはキーワードである。」


()  また、2002年1月18日の国連総会で採択された決議である「国連識字の10年:すべての人々に教育を」も、次のとおり述べている。


 「識字は、すべての子ども、若者及び成人が、生きていく中で直面する困難に立ち向かうことを可能とする大切な生活スキルを修得する上で決定的に重要であり、21世紀の社会及び経済に効果的に参加するために不可欠な手段である基礎教育の基本的ステップに相当する。」


 「すべての政府に、識字への取組みの政策の策定、実施及び評価に関する持続的対話に、関連する国内の実行主体すべてを集め、国内レベルでの10年の活動の調整を先頭に立って行うよう要請する。」


()  このように、学習権が充足されることは、すべての人が人としてその人格を形成し、発展させていくために必要不可欠なものであるところ、そうとすれば、自己の意思に反し、又は、本人の責めによらずに義務的かつ無償とされる普通教育を受ける機会を実質的に得られていない者については、学齢を超過しているか否かにかかわらず、国に対し、合理的な教育制度と施設等を通じて義務教育レベルの適切な教育の場を提供することを要求する権利を有するものというべきである。


(2)  中高年齢の義務教育未修了者


 実情


 全国夜間中学研究会によれば、2005年9月現在、全国の夜間中学の在籍生徒2587名中、中高年齢者(ただし、中国帰国者及び在日韓国・朝鮮人を除く。以下も同じ)が521名存在する。


 これらの者の多くは、戦中・戦後の混乱期等に貧困のため家業や家事の手伝いに従事していたことから、修学することができなかった者である。


 この点、別紙のとおり、当連合会人権擁護委員会の調査によっても、上記のような理由で義務教育を受けることができなかった者として、札幌市のA子(66歳)、B子(72歳)、埼玉県川口市のC子(77歳)、和歌山市のD男(65歳)、北九州市のE子(66歳)、F子(59歳)、G子(57歳)及びH男(64歳)の8名の存在が確認されている。


 義務教育未修了者に関する全国的な実態調査はされていないものの、前記3(1)で述べたところからすれば、全国的に多くの中高年齢の義務教育未修了者が存在するものと推認できる。


  検討


 このカテゴリーの人々は、戦中・戦後の混乱や貧困という理由で、まさしく自己の意思に反して、又は、その責めによらずに、義務教育を受ける機会を失った人々である。


 したがって、これらの人々は、前記4(1)で述べたとおり、国に対し、未だ提供を受けていない義務教育レベルの適切な教育の場を提供することを求める権利を有するものというべきである。


  求められる施策


 このカテゴリーの人々は、現にわが国において長期間社会生活を営んできた人々であるから、日本語の会話能力や我が国の文化に関する理解などは有している。


 これらの人々が昼間の小・中学校で学習することを望む場合には、既存の小・中学校において積極的に受け入れる弾力的な運用が望まれるところである。


 もっとも、現に子どもたちが通学している小・中学校で学習することには、高齢で世代のギャップがあることによる心理的抵抗感や、昼間に仕事などをしている者もいることからすれば、必ずしも適切とはいえない場合もある。


 このような場合において、このカテゴリーの人々に対し、義務的かつ無償とされる普通教育を受ける権利を実質的に保障するためには、現在の夜間中学のような教育施策が必要であり、地域ごとの実情に応じ、夜間中学の設置や、自主夜間中学を運営する民間グループに対する様々な援助(施設の提供、財政的支援等)といった施策が行われるべきである。


(3)  障がいのある人で就学免除を受けた者


 実情


()  学校教育法は、満6歳から12歳までの学齢児童及びこれに続き15歳までの学齢生徒である子を有する保護者(親権者又は未成年後見人)は、法律上当然にその子をそれぞれ小学校及び中学校又は盲・ろう・養護学校の小学部及び中学部に就学させる義務を負うものと規定する(22条1項、39条1項)。


 これを受け、同法74条は、都道府県に対し、盲・ろう・養護学校の設置義務を規定するが、同法93条は、盲・ろう・養護学校における就学義務及びこれらの学校の設置義務の施行期日は政令でこれを定めると規定していたところ、養護学校の義務制が施行されたのは、1979年に至ってからであった。


()  他方で、同法は、病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のため、就学困難と認められる者の保護者に対しては、就学義務を猶予又は免除することができると規定する(同法23条、39条3項)。


 しかるところ、いずれの学校にも入学できないと判別された障がいのある児童については、教育委員会からの誘導によって親からの願い出に基づく就学猶予ないし免除の措置が採られており、これにより例年約2万人の障がいのある児童が学校教育から外されていた(兼子仁・教育法[新版]259ページ参照)。


 ただし、1979年に養護学校の義務制が施行された以降については、就学猶予又は免除の措置が採られる場合は、身体の障がいが相当に重い場合や、難病等による就学困難の場合に限られることとなった。


()  1948年から2001年までの就学免除者の合計は、25万735人ともいわれているところ、仮に就学免除を受けた障がいのある児童であっても、その後に学習が可能になった者や、学習意欲を持つに至った者は、当然存在し得る。


そして、前記2(4)のとおり、実際に、このような者が、夜間中学で学習を行っている状況にある。


 検討


 学齢期に障がいによって就学が免除されても、それが子どもの学習する権利の喪失を意味するものでないことはいうまでもない。


 すなわち、障がいを理由とする就学免除を、障がいのある児童の観点からみれば、自己の意思によらず、又は自らの責めによらない事情で義務教育を受ける機会を失い、未だその機会を与えられていないということにほかならない。


 したがって、義務教育を受けられなかった障がいのある人は、前記4(1)で述べたとおり、国に対し、義務教育レベルの適切な教育の場を提供することを求める権利を有するものというべきである。


  求められる施策


 当連合会は、2001年11月9日の人権擁護大会宣言において、今後制定されるべき差別禁止法の内容の一つとして、「障がいのある人は、統合された環境の中で、特別のニーズに基づいた教育を受け、教育の場を選択する権利を有すること。国及び地方公共団体は、障がいのある人の教育を受ける権利を実現するために必要な設備の設置、教員の増員などの条件整備を行う義務を負うこと。」を提言している。


 すなわち、障がいのある人のそれぞれの特性に応じた教育を施す義務が国には存在するというべきであって、就学免除等によって学齢を超過したこと等も、特性の判断の要因として考慮されるべきである。


 そうとすれば、小・中学校であれ、盲学校、ろう学校又は養護学校であれ、必要な条件を整備した上で学齢超過者を積極的に受け入れる弾力的な運用が求められているということができる。


 また、就学免除等によって学齢を超過した者が、夜間中学で教育を受けることを望む場合もあり得るところ、実際にも、夜間中学は、このような者の義務教育を受ける機会を保障する場として機能している。


 したがって、上記の弾力的な運用とともに、地域ごとの実情に応じ、夜間中学の設置や、自主夜間中学を運営する民間グループに対する様々な援助(施設の提供、財政的支援等)といった施策も併せて行われるべきである。


(4)  中国帰国者


 実情


()  概要


 中国帰国者には、中国残留邦人及びその家族が含まれる。中国残留邦人は、戦前の満州移民ないし満蒙開拓政策により送り込まれた日本国民が、ソ連参戦・敗戦の混乱の中で置き去りにされ、その後も集団引き揚げ事業が不十分であったため、数十年後にようやく日本に帰国した者である。


2005年9月現在、全国の夜間中学の在籍生徒2587名中、中国帰国者は764人を占めている。


()  現状


 1994年に制定された中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律11条は、「国及び地方公共団体は、永住帰国した中国残留邦人等及びその親族等が必要な教育を受けることができるようにするため、就学の円滑化、教育の充実のために必要な施策を講ずるものとする。」と規定するが、現状ではその施

策が十分に講じられているとは言えない。

 すなわち、旧厚生省は、1984年2月、埼玉県所沢市に中国帰国孤児定着促進センターを設置し、その後も全国4か所に同様の定着促進センターを設置した。


このセンターでは、主に日本語教育が行われているが、実質上は3か月半程度の教育期間であることから、日本語を習得するには全く不十分であった。


 そこで、旧厚生省は、1988年、新たに全国主要都市15か所に中国帰国者自立研修センターを設置し、定着促進センターを退所した中国帰国者のため、さらに、5か月から1年の期間、通所の形式による日本語教育を実施することとした。


 その後、厚生労働省は、2001年、東京及び大阪に中国帰国者支援・交流センターを設置し、就労に結びつくような日本語の修得の支援を開始した。なお、上記研修センターや交流センターに通所できない者には語学教材の貸出がされている。


 しかし、厚生労働省が1999年に実施した調査によれば、帰国後1年未満で日常生活を営むことができる程度の会話ができるようになる者の割合は、孤児では27・4%、婦人等では27・1%に過ぎない。また、日本語の会話を未修得と答えた者は、孤児では32・7%、婦人等では32・3%に上っている。


  検討


 当連合会が2004年3月24日に執行した中国残留邦人・中国帰国者人権侵犯問題に関する人権救済申立事件の調査報告書で述べているとおり、「満州開拓移民」政策は、日本の中国東北部に対する国際法上違法な勢力拡張(侵略)政策の重要な手段の一つであり、ポツダム宣言受諾により、日本国民には、中国東北部において耕作したり、営業したりする権限のないことが明らかとなった。


 したがって、政府は、この時点で、直ちに、国策として多数に上る日本国民を中国東北部に送り込んできたという自己の先行行為に基づき、条理上当然に負担すべき原状回復義務として、帰国を望むすべての中国残留邦人のために、可及的に速やかな帰国が実現できるよう制度及び運用の態勢を策定・整備すべき義務を負っていた。


 しかし、政府は、敗戦前後だけでなく、その後も日中国交回復までの間、中国残留邦人の引揚げについて、不十分極まりない対応に終始し、上記の作為義務に違反してきた。


 そして、中国残留邦人が、高齢になるまで長年月にわたって、母国である日本の義務教育を受けることはおろか、母国語である日本語を修得する機会さえ持てなかったのは、その帰国を実現すべき作為義務に政府が違反してきたためである。


 すなわち、中国残留邦人は、自己の意思に反して、又は、その責めによらずに、日本における義務教育を受ける機会を奪われた人々である。


 したがって、中国帰国者は、前記4(1)で述べたとおり、国に対し、日常会話に不自由しないレベルの日本語の修得を出発点とし、義務教育レベルの適切な教育の場を提供することを求める権利を有するものというべきである。


  求められる施策


()  当連合会は、前記の中国残留邦人・中国帰国者人権侵犯問題に関する人権救済申立事件の調査報告書において、中国帰国者に対して求められる施策について詳しく述べているところ、本件に関する部分については、以下のとおりの勧告が行われている。


@  日本において義務教育を受ける前提としての日本語習得の重要性に鑑み、中国帰国者のための日本語教育は、その希望に従い、中学卒業と同程度の読み書き及び日常会話に不自由しないレベルに至るまで受講を続けうる制度を策定すべきであり、そのための人的・物的設備を充実させること。


A  中国帰国者に対し、義務教育を受ける機会を保障すべく、その希望に従い、すべての公立小学校または中学校への入学を認めること。


B  中国帰国者のうち、上記の通学に適さない者のために、国の予算で各家庭に日本語の個人教師を派遣すること。


()  すなわち、中国帰国者に対して必要な施策は、一次的には日常会話に不自由しないレベルの日本語の習得であり、その上で義務教育レベルの教育を受ける機会が保障されるべきである。


 しかし、上記の勧告にもかかわらず、国の施策の不備は現在も改善されていないのであり、これを補う形で、夜間中学が多数の中国帰国者を受け入れている現状にある。


 したがって、これらの人々の日本語の習得及び義務教育を受ける機会を実質的に保障するためにも、再度、国に対して上記の施策を行うことを求める必要がある。


(5)  在日韓国・朝鮮人


 実情


()  全国夜間中学研究会の調査によれば、2005年9月現在、全国の夜間中学の在籍生徒2587名中、564名が在日韓国・朝鮮人である。


 これらの人々は、日本人の中高年齢の義務教育未修了者と同様に、戦中・戦後の混乱期に貧困のため家業や家事の手伝いを余儀なくされたことから、修学することができなかった人々である。

 別紙のとおり、当連合会人権擁護委員会の調査によっても、上記のような理由で義務教育を受けることができなかった者として、在日韓国人2世である北九州市のI子(63歳)及びJ子(67歳)の2名の存在が確認されている。


()  この点、上記の事情の重要な背景としては、@第二次世界大戦の深刻化に伴う労働力不足解消の手段として行われた強制連行や、日本の植民地支配を契機とする渡航によって、日本に居住することになった朝鮮人が、いわゆる外地人として法律上不利益な地位に置かれていたのみならず、賃金、労働条件など、経済・社会生活の様々な分野において不利益な取り扱いを受けていたこと、また、Aこれらの人々の多くは、ポツダム宣言受諾後も、長年にわたる植民地支配によって故郷での生活基盤を失ってしまったことや、本国に帰国することを支援する措置が不十分であったことなどから、日本に引き続き居住して労働により生活を維持することを余儀なくされたことが挙げられる。


()  そして、義務教育未修了者に関する全国的な実態調査はされていないものの、現在、我が国に多くの在日韓国・朝鮮人が居住していることからすれば、上記の理由で修学することができなかったにもかかわらず、未だ普通教育を受けることができていない人々が相当数存在するであろうことは容易に推認される。


 検討


()  外国人に対して憲法の規定する基本的人権が保障されるか否かについては、「基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ」ものと解されている(最高裁1978年10月4日判決・民集32巻7号1223ページ)。


 この点、いわゆる社会権については、第一次的には各人の国籍国によって保障されるべき権利であるとしても、生存の基盤となる領域で一定の要件を有する外国人に憲法の保障を及ぼすことは、社会権の性質に矛盾するものではないと解される(芦部信喜・憲法学U〔人権総論〕136ないし137ページ参照)。


 そして、前記4(1)のとおり、憲法の規定する教育を受ける権利が、一個の人間が社会内で成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有することを背景としていることからすれば、少なくとも日本社会の一員として居住する永住外国人については、国民と同様に教育を受ける権利の保障が及ぶものと解すべきである(芦部・前掲138ページ参照)。


()  このように、外国人に対しても日本国が教育を受ける権利を保障すべきことは、社会権規約13条及び14条並びに子どもの権利条約28条1項が、すべての人々が教育を受ける権利を有することを認めるとともに、教育を受ける権利の内容として、義務教育及びこれを無償のものとすべきことを規定していることや、社会権規約2条2項及び子どもの権利条約2条1項が、国民的出身等によるいかなる差別も禁止されることを規定していることからも明らかである。


()  しかるところ、在日韓国・朝鮮人で普通教育を受けることができなかった人々は、前記ア()のとおり、日本の植民地支配を重要な背景とする戦中・戦後の混乱期の貧困という理由により、自己の意思に反して、又は、その責めによらずに、普通教育を受ける機会を奪われた人々である。


 したがって、これらの人々は、日本国に対し、適切な普通教育の場を提供することを求める権利を有するものというべきである。


  求められる施策


 在日韓国・朝鮮人で普通教育を受けることができなかった人々は、現に日本社会において長期間社会生活を営んできた人々であり、日本語の会話能力や日本の文化に関する理解などを有していることからすれば、前記4(2)の中高年齢者の場合と同様の施策が必要であるということができる。


(6)  15歳以上の新渡日外国人(いわゆるニュー・カマーの外国人)


 15歳以上18歳未満の新渡日外国人


()  実情


 前記の全国夜間中学校研究会作成「公立夜間中学校の実例調査のまとめ」によれば、18歳未満の新渡外国人の子どもが、自宅から通える範囲に夜間中学がないため、初等・中等教育を受けられない事例として、以下のとおり報告されている。


@  15歳で東京都内の夜間中学に入学したフィリピン人男性A


 母が日本人の夫と結婚した後、Aをフィリピンから呼び寄せたが、フィリピンでの就学経験も短く、学力も低かったAは、夜間中学の2年生として入学したものの、家族の都合で福島県に転居したため、除籍となった。その後、Aは、勉強を続けることができない状況にある。


A  17歳で千葉県内の夜間中学に入学した日系ブラジル人男性B


 Bは、就労のために渡日し、日本語を学ぶために夜間中学に入学した。しかし、愛知県に転居する必要が生じたため、除籍となった。愛知県には夜間中学がないため、Aは、やむを得ず日本語を独習している。


B  東京都内の夜間中学に問い合わせをした17歳のペルー人男性C


 ペルー人の母が日本人の夫と結婚した後、ペルーから呼び寄せられて渡日した。Cは、近くに夜間中学のない県の居住者であったことから、東京都内の夜間中学に問い合わせをしたものの、自宅から余りに遠いことから、同中学への入学を断念した。


()  検討


a  社会権規約13条及び14条並びに子どもの権利条約28条1項は、すべての人々が教育を受ける権利を有することを認めるとともに、教育を受ける権利の内容として、義務教育及びこれを無償のものとすべきことを規定している。


 特に、子どもの権利条約は、1条において、18歳未満を「子ども」と定義した上、28条1項において、「初等教育を義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする。」((a))、「種々の形態の中等教育(一般教育及び職業教育を含む。)の発展を奨励し、すべての子どもに対し、これらの中等教育が利用可能であり、かつ、これらを利用する機会が与えられるものとし、例えば、無償教育の導入、必要な場合における財政的援助の提供のような適当な措置をとる」と規定している((b))。


 この点、日本においては、上記にいう初等教育は小学校を指し、中等教育は中学校・高等学校を指すとされている(波多野里望・逐条解説児童の権利条約〔改訂版〕202ページ参照)。


 もっとも、本項には「漸進的に」という文言が付されているところ、現在の日本が国際社会において占める地位や、既に中学校までを無償の義務教育とする制度が採用されていることに鑑みれば、日本においては、少なくとも、中学校における無償の義務教育が保障されるべきものと解すべきである。


 このように、18歳未満の新渡日外国人の子どもに対し、日本の小・中学校で無償の義務教育が保障されなければならないことは、前記4(5)のとおり、社会権規約2条2項及び子どもの権利条約2条1項が、国民的出身等によるいかなる差別も禁止されることを規定していることからも明らかである。


 したがって、18歳未満の母国で日本における小・中学校に相当する教育を受けていない新渡日外国人の子どもが、両親の都合などにより来日した場合、当該子どもは、日本の小・中学校で無償の義務教育を保障されなければならないものというべきである。


b  また、民族的少数者にとっては、民族的アイデンティティを保持する権利が、市民的及び政治的権利に関する国際規約27条において確認されているところ、このような権利は、「民族的又は種族的、宗教的及び言語的マイノリティに属する者の権利に関する宣言」や、子どもの権利条約30条において具体化されている。


 そして、民族的アイデンティティを保持する上でとりわけ重要な役割を担うのが教育であることからすれば、新渡日外国人の子どもについては、充実した日本語指導を受けることに加えて、その民族的アイデンティティを確立するため、母語・母国語等を学ぶ機会、母国の歴史や文化を学習する機会も保障されるべきである。


()  求められる施策


 18歳未満の新渡日外国人のうち、既存の昼間の小・中学校へ通うことができる者は、年齢超過であっても、編入が許可されるべきである。


 国は、外国人については、市町村が適当と認めれば入学を認めるとしているが、以上に述べた点からすれば、国には、18歳未満の新渡日外国人の子どもの編入を認める義務があるといえる。


 しかし、両親の都合や種々の理由で、このような子どもが昼間に就学することができない場合は、夜間中学などの就学へのきめ細やかな施策が必要になると考えられる。


 また、前記()で述べたとおり、新渡日外国人の子どもに上記の施策を実施するに当たっては、日本語指導の充実に加えて、その民族的アイデンティティへの配慮を行うことが併せて求められているものである。


  18歳以上の新渡日外国人


()  実情


 日本においても、その数が十分か否かの問題はおくとして、地方自治体が開設する新渡日外国人のための日本語クラスがいくつか存在しているところ、講師料は公的に負担され、外国人が教材費程度で学んでいる事例もある。


 しかしながら、現実には、新渡外国人が日本語を修得するための公的教育機関が不十分であることから、夜間中学がこれらの人々を受け入れて日本語教育を施している実情にある。


()  検討


 前記4(5)のとおり、少なくとも日本社会の一員として居住する永住外国人については、国民と同様に教育を受ける権利の保障が及ぶものと解すべきである。


 もっとも、それ以外の18歳以上の新渡日外国人については、仮にその者が国籍国で義務教育を受ける機会が得られていないとしても、その者の教育を受ける権利を保障すべき責務は、第一次的にはその国籍国にあるものと考えられる。


 そのような場合は、仮に、このような者が、自己の意思に反し、又は、その責めによらずにその国籍国において義務教育を受ける機会を実質的に得られていないとしても、日本国に対し、義務教育レベルの適切な教育の場を提供することを要求する権利を有しているとまではいえないものといわざるを得ない。


()  求められる施策


 しかし、他方、そのような場合であっても、国又は地方自治体が、財政の許す範囲で、日本に居住する外国人に対して教育を受ける権利の保障に努めることは、社会権規約2条2項が、国民的出身等によるいかなる差別も禁止されることを規定した趣旨からも望ましいことである。


 実際にも、一旦日本への入国及び在留を認めたのであれば、当該外国人が日本において教育を受ける権利を有するか否かを検討する以前に、国又は地方自治体が、当該外国人が日本において社会生活を円滑に行えるよう、日本語習得のための施設を開設し、利用させることは、国際化社会を迎えて、必要なことであると思われ、政策的にも、外国人に日本語習得のための機関を用意するということは、日本社会にとって有益である。


 したがって、夜間中学をはじめとする義務教育を受ける機会を実質的に保障する施策が実施される場合には、18歳以上の新渡日外国人であっても、積極的にその対象に含めることが望ましい。

  実施されるべき施策


(1)  義務教育を受ける機会を奪われた人々の存在


 前記4(2)アで述べたとおり、当連合会人権擁護委員会の調査によっても、貧困等の理由で義務教育を受けることができなかった中高年齢者が、北海道札幌市に2名、埼玉県川口市に1名、和歌山市に1名、北九州市に4名の合計8名確認されている。


 また、前記4(5)アで述べたとおり、同様の理由により普通教育を受けることができなかった在日韓国・朝鮮人が、北九州市に2名確認されている。


 この点、ある高齢の義務教育未修了者は、当連合会人権擁護委員会からの事情聴取に対し、「字が読めないがために、手紙が来るたびに、回覧板が回されるたびに身の縮む思いがした。自分には生きている価値がないと度々感じた」と述べている。


 このように、わが国の非識字率が低いことから、普通教育を受ける機会を奪われてきた少なくない人々は、生活上、職業上の様々な場面で著しいハンディを背負い、肩身の狭い思いをしているものである。


 このような人々は、義務的かつ無償とされる普通教育を受ける機会を奪われることによって、まさしくその人間としての尊厳を長期間にわたって傷付けられてきたということができる。


 そして、当連合会人権擁護委員会による限られた調査の中でも上記のような人々が確認されたことに加えて、前記3(1)のとおり、内閣総理大臣答弁書においても、義務教育を修了していない者の数が約70万人程度であると推計されていることからすれば、中高年齢者、在日韓国・朝鮮人のみならず、その他のカテゴリー(障がいのある人、中国帰国者、15歳以上18歳未満の新渡日外国人)においても、同様に普通教育を受ける機会を奪われている多くの人々が全国各地に存在することが容易に推認されるところである。


(2)  検討


 上記のとおり、義務的かつ無償とされる普通教育を受ける機会を奪われた多くの人々が全国各地に存在すると推認されることからすれば、これらの人々の教育を受ける権利を実質的に実現するためには、各市町村及び各都道府県が、それぞれの地域の実情に応じた施策を実施すべきことは言うまでもない。


 しかし、前記3(1)のとおり、我が国においては、未だどのカテゴリーの義務教育未修了者が、どの地域に、どれだけの人数存在するのかという実態が明らかになっておらず、当連合会が、地域の実情に応じた施策を個別に検討した上、全ての市町村及び各都道府県に対して地域の実情に応じた個別の施策の実施を提言することは、現時点では事実上困難である。


 したがって、本意見書では、都道府県及び市町村に対して必要な指導、助言及び援助を行う権限を有する国に対し、以下の内容の意見を述べることとし、各都道府県及び各政令指定都市に対しては、本意見書を参考として送付することによって、これらの人々の教育を受ける権利が実現されることを期待することとする。


(3)  全国的な実態調査


 上記のとおり、我が国においては、未だ義務教育未修了者に関する全国的な実態調査が行われたことがないため、どのカテゴリーの義務教育未修了者が、どの地域に、どれだけの人数存在するのかという実態は全く不明である。


 文部科学省は、現在も実態調査の必要はないという見解を示しているが、上記のとおり、多くの人々の教育を受ける権利が実現されていないと推認されることからすれば、そのような姿勢は許されないものといわざるを得ない。


 したがって、国は、戦争、貧困等のために学齢期に修学することのできなかった中高年齢者、在日韓国・朝鮮人及び中国帰国者などの多くの人々の普通教育を受ける権利が実現されていない蓋然性が高いことに鑑み、義務教育未修了者について全国的な実態調査を速やかに行うべきである。


(4)  個別のニーズに応じた基礎学力履修施策実施の推進


  夜間中学の設置等


()  前記4(2)及び(5)で検討したように、戦争、貧困等のために学齢期に修学することのできなかった中高年齢者や在日韓国・朝鮮人の人々にとっては、現在の夜間中学のようないわば「学びの場」が必要である。


 したがって、国は、上記の実態調査の結果、これらの人々が一定数以上存在する地域には、夜間中学の開設を指導及び助言するとともに、必要な財政的措置を行うべきである。


 また、地域ごとの実情に応じ、自主夜間中学を運営する民間グループに対する様々な援助(施設の提供、財政的支援等)などの施策も国によって推進されるべきである。


()  文部科学省は、夜間中学の設置等に関する当連合会からの照会に対して、「夜間中学の設置は、市町村教育委員会が判断するべき事項であり、また、新たな財政支出を強いることになりうる学校を設置することについて指導することは困難である」と回答している。


 確かに、法令上は、市町村教育委員会の裁量により、夜間学級を実施するかどうかについて決定できる仕組みとなっている。


 しかし、前記のとおり、多くの人々について、義務的かつ無償とされる普通教育を受ける権利が実現されていないことに鑑みれば、実態調査を行った結果として、夜間学級の設置の必要性が認められる場合にこれを設置しないことが社会的相当性を欠くことは明らかであるというべきである。


 ところで、地方自治法245条1号及び245条の4第1項は、国の行政機関の地方公共団体に対する助言又は勧告等による一般的な関与を定めており、また、地方教育行政の組織及び運営に関する法律48条は、教育に関する事務の適正な処理を図ることを目的として、文部科学大臣が都道府県又は市町村に対して指導、助言又は援助を行う権限及び都道府県教育委員会に対し、必要な指示をなす権限について定めているところ、これらの規定の趣旨に鑑みれば、文部科学大臣が、実態調査を行った結果として、夜間学級の設置を指導、助言すれば、各地方公共団体はこれを尊重し、その設置が実現される可能性は高いものと考えられる。


 また、財政的措置についても、前記のとおり、内閣総理大臣答弁書によれば、夜間学級を置く公立中学校については、公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律により算定した学級数等に基づき教職員定数を措置し、教職員給与費等を義務教育費国庫負担法により、また、これらの学級数に応じて建物建築費を義務教育諸学校施設費国庫負担法により、それぞれ国庫負担しているとされているところである。


 そもそも、教育を受ける権利という基本的な人権の実現を拒むことが、財政支出が伴うことを理由に正当化されるはずがないことも併せて考慮すれば、国は、各地方自治体に対して、教育を受ける権利が実現されていない状況を解消するための指導・助言をするとともに、これに必要な財政的支援を行うことが求められているものというべきである。


 したがって、国は、上記の実態調査の結果、夜間中学の設置の必要性が認められた地域について、当該地域を管轄する市町村及び都道府県に対し、その設置について指導及び助言をするとともに、これに必要な財政的措置を行うべきである。


  その他の施策


 次に、前記4(3)のとおり、障がいのある人に対しては、障がいの特性に応じた教育が実施できるよう(例えば、聴覚に障がいのある人に手話を解する教師が対応するなど)、学齢超過者であっても、ろう学校等に積極的に受け入れるなどの施策が必要である。


 また、中国帰国者に対しては、前記4(4)のとおり、まずは、十分な日本語能力を修得するために中国語を解する日本語教師の存在が不可欠なのであり、既存の研修センター等の充実や個人教師の派遣等が検討されるべきである。


 さらに、前記4(6)のとおり、18歳未満の新渡日外国人に対しては、既存の昼間の小・中学校への編入を積極的に認めることなどの施策が必要である。


 このように、義務教育を受ける機会が実質的に得られなかった者に対して国が行うべき施策は、その者のニーズや地域ごとの実情に応じて、義務教育を受ける機会を実質的に保障することである。


 したがって、国は、個別のニーズと地域ごとの実情に応じて、@既存の学校の受け容れ対象者の拡大、A自主夜間中学等を運営する民間グループに対する様々な援助(施設の提供、財政的支援等)、B個人教師の派遣等の基礎学力履修施策を推進するべきである。


  おわりに


 上記のとおり、本来的には、義務教育未修了者の個別のニーズに応じた基礎学力履修施策が講じられるべきであるが、既に個別に見てきたとおり、すべてのカテゴリーにおいて、現在、国は、何の施策も講じていないか、極めて不十分な施策しか講じていないかのいずれかである。


 そのため、多くの義務教育未修了者は、依然として放置されたままであり、夜間中学は、これらの多様なニーズを抱えた人々のいわば「駆け込み寺」として、これを受け容れ、教職員たちは、そのニーズに応えるべく日々悪戦苦闘しながら教育実践を繰り返している。


 これらの放置された人々にとって、夜間中学は、何ものにも代え難い権利の回復のための「学びの場」となっているのである。


 すなわち、現在の夜間中学は、国の施策の不備を補う形で、多様な義務教育未修了者にとって、教育を受ける権利を保障する場となっているのであり、その意義と機能には極めて大きなものがあると言わなければならない。


 そして、国が、上記のような各種の基礎学力履修施策を十分に実施することのないまま放置していることにより、これらの義務教育未修了者の教育を受ける権利が実現されていない蓋然性が高いものというべきである。


 このような状況であるからこそ、仮にも、夜間中学の意義と機能を軽視し、その縮小を図るような措置が取られることは、厳に慎まれるべきであることを特に付言する。


以 上




(別紙)



 当連合会人権擁護委員会が、全国各地の義務教育未修了者の実態調査をした結果は、次のとおりである。



  札幌市


(1)  A子 73歳(調査時。以下も同じ) 札幌市北12条西23条


 同人は、1931年に北海道の岩内で5人きょうだいの次女として生まれた。同人が3歳の頃に父親が亡くなり、母方の実家に預けられた。6歳のころに母のもとに戻った。母は再婚をしたが、同人は、義父との折り合いが悪く、小学2年生の春に農家の子守に出された。16歳のときに母のもとに戻り、17歳の時に義父が亡くなった。そのため、同人は義務教育を受ける機会を失った。その後、同人は1959年から定山渓の保養所で住み込みとして働き、1961年ころから1986年までススキノで仲居として働いた。


 同人は、働いているころから、読み書きのできないコンプレックスと不自由を感じていた。自分で新聞も読めなかった。ススキノで仲居をしているときは、伝票は全てアルバイトの人にチェックしてもらい、お釣りもアルバイトの子に出してもらった。同僚の中には「学問もしていない人が・・・」と陰口を叩く人もいた。友達と待ち合わせをしても、ビルの名前も読めなかったり、役所に行っても、「手が震えるので、書けない」と説明して字を書いてもらったりした。29歳のころに結婚しようとしたが、相手の男性の母親から、「教育のない母親には子ども育てることはできませんよ。」と言われたこともあった。


 同人は、2000年から「遠友塾」という自主夜間中学で学んでいる。

しかし、自主夜間中学の場合は、勉強する場所は自分たちで探さなければならず、ロッカーも保健室もなく、設備がないのが不自由である。


(2)  B子 72歳 札幌市西区


 同人は、1932年に北海道紋別郡上別村字開成で、5人きょうだいの2番目として生れた。父親は自営農であった。1941年6月、同人が小学4年生のときに父親が突然癌で亡くなった。働き手をなくしたので、姉と同人が農業の手伝をするようになり、学校に通うことができなくなった。そのため、小学4年生のときから勉強ができなくなった。1944年に高等小学校へ通うことは許してもらったが、農業を手伝わないと生活ができないので、結局勉強をすることはできなかった。1959年に建具職人の夫と結婚して札幌に来た。夫との間に子どもを2人もうけた。同人は専業主婦だったが、1978年4月ころから清掃の仕事を始めた。


 同人は、小学4年生までしか学校に行っていないのでローマ字は読めないが、孫に「あの字何て読むの」と聞かれたりして、孫に教えられないのをとても恥ずかしく思った。


 同人は、「遠友塾」という自主夜間中学で学ぶことにした。遠友塾では月1500円の授業料が必要であり、遠友塾には給食はない。市民会館に備えてあるロッカーには先生たちの教材が入っているので、生徒の教材などをしまっておく場所がない。また、国語の辞書は6冊しかない。


  埼玉県川口市


C子 77歳 埼玉県川口市


 同人が子どものころは、戦争が激しくて勉強どころではなかった。戦後も生活のために勉強する余裕はなかった。また、父親は、女は勉強する必要はないという考えであり、学校に通わせてくれなかった。このように戦争と父親の無理解が原因で学校に行くことはできなかった。


 読み書きができないので、子どものPTAに行ったときに話題に入れずに発言することができない。また、人に自分の気持ちを伝えたいときに書いて伝えることができない。駅で字が読めず、人に聞かなければ切符を買うこともできない。役所に行ったときに、書類が書けない。病院も表示がよく読めないために人に聞きながら行っている。自分の病気の状態は分かっても、その病名が分からず、どこで受診をしてよいかが分からない。洋画を見るのは好きだが、字幕が読めない。買い物に行ったとき、何%割引を書いてあるのを見ても、すぐには計算ができない。


仕事をしたいと思っても、履歴書に小学校卒業としか書くことができなかった。


現在は川口市自主夜間中学校で学んでいる。


  和歌山市


D男 65歳 和歌山市


 同人は、1941年4月、満州で4人きょうだいの2人目として生まれたが、4、5歳ころ、父親と3番目の妹とともに岡山県児島市に帰り、他の家族とは生き別れた。その後、尋常小学校に入学したが、父が薪束ねの仕事で忙しいため、炊事、洗濯、掃除などの家事全般を同人が行っており、学校の勉強は頭に入らなかった。小学3年生の中ころ、父親が盲腸で死亡したため、同人は、岡山市の養護施設に入所することとなった。入所後は、午前中に勉強の時間はあったものの、現場作業や農作業など施設内のあらゆる作業が大変であり、勉強はほとんどできなかった。


 18歳で施設を出てから、左官見習となり、20歳で来阪した。23歳ころに結婚し、子どもを2人もうけ、27歳で左官職人として独立した。40歳代のころ、仕事中に右足複雑骨折の事故にあい、京都の病院に入院した。


 退院後は、労災給付を受けながら独り暮らしをしたが、その間、妻とは離婚した。その際、少し時間に余裕ができたので、44歳のとき、京都市立郁文中学校夜間学級に入学し、1年強通学した。読み書きができないので、手紙も全て捨てており、人に説明するときなど、「情けなくて生きている価値がない」と感じていたことから、「読み書きができるよう勉強したい」というのは同人の悲願であった。


 46歳のころ、子どもの住んでいる和歌山市に引っ越し、水道工事会社に勤務したが、60歳ころに退職して時間に余裕ができたとき、また勉強したいとの思いから、近所の知人に「京都のときと同じように夜間中学に行きたい」と相談した。知人が教育委員会に問い合わせたところ、「夜間中学はないが識字学級はある」と岩橋識字学級を紹介されて通い始めた。


 約1年間通学した後、同人の「識字以外の勉強もしたい」との強い希望から、マンツーマンでの自主夜間中学が始められ、現在に至っている。


 識字学級・自主夜間中学は、児童館の部屋を借りて、それぞれ月1回、午後7時30分から9時まで行われるだけであり、また、小学校教諭2名が実質的にボランティアで教師役を務めてくれていることから、カリキュラムの量と質に公立の夜間中学とは大きな差がある。そのため、同人は、公立夜間中学の設置を希望している。


  北九州市


(1)  E子 66歳 北九州市小倉北区


 同人は、1944年に疎開先の山口県の小学校に入学したが、戦争中は度々爆撃のため避難していたことから、落ち着いて勉強ができなかった。

そして、終戦後は両親が共に仕事に出たので、3人の弟と祖母の世話のため、なかなか通学できなかった。同人は読み書きが十分できないため、公共交通機関の利用も一人ではできず、辛い思いをしている。


同人は、国が認める公立夜間中学校で勉強して卒業証書をもらいたいと願っている。


(2)  F子 59歳 北九州市小倉南区


 同人の生家は農家であり、両親は早朝から深夜まで田圃で働いていた。そのため、同人が弟や妹の面倒をみなくてはならず、学校へは行けなかった。現在、週3回のよみかき教室に通っているが、週3回では成果が上がらない。今まで基礎教育を受けていないことから、役所の手続き、病院の受診、子どもの学校の手続の際など、ことごとく不自由をしていた。


(3)  G子 57歳 北九州市小倉北区


 同人は、子どものころ、両親が死亡したなどの家庭の事情のため、学校に通うことができなかった。自分自身が読み書きができないため、子どもの授業参観に行くのが苦痛であった。特に、父母会の役員を決める際、読み書きができないにもかかわらず、役員に指名されると困るので、いつも急いで帰っていた。仕事も力仕事しかできなかったし、病気で病院を受診する際も、問診票を書くことができず、苦痛に感じていた。


現在、昼間はパートで仕事をしているので、夜間しか勉強することができない。


(4)  H男 64歳 北九州市小倉南区


 同人は、家庭が貧しかったため、小学校もあまり登校できなかったが、一応は卒業した扱いになっている。しかし、13歳からは、年齢を偽って仕事(主に現場作業)を始めた。同人は、7人家族の長男であった。


 それ以来、読み書きができないため、土木作業員などの仕事にしか就けなかったが、22歳から定年までは、ゴミ収集の仕事を勤め続けた。現在は、学ぶことのできなかった読み書きを学びたいので、自主夜間中学のよみかき教室に通っている。また、自主夜間中学の運営はお金がかかるので、先生方はいつも金策に奔走しており、学ぶ環境として十分とは言えない。

同人は、昼間は畑での耕作やシルバー人材センターでの仕事をしたりしているので、昼間の中学では通えない日が増えてしまう。


(5)  I子 63歳 北九州市小倉北区


 同人は在日韓国人2世である。6人きょうだいであるが、きょうだいのうち兄一人が幾分学校に通っただけで、後のきょうだいたちは極貧のため学校に通えなかった。両親は共に働いており、同人は学校に通うことなく、家事全般を担当していた。同人は18歳から仕事をするようになったが、中学卒業資格もなく、読み書きができないため、土木作業等の仕事が多かった。同人は病気になっても、病院受診の際に住所氏名からして書けず、また、診断書も読めないということで、大変に困っていた。


 同人は糖尿病の持病があり、現在毎日のように病院に通っている。そして夜間よみかき教室に通っているが、先生がボランティアで何かと大変であるので、公立の夜間中学校を作ってほしいと考えている。


(6)  J子 67歳 北九州市小倉北区


 同人は在日韓国人2世で、8人きょうだいの2番目であった。同人は、小学校は朝鮮学校へ入学したが、小学校3年時に日本の小学校に転校した。しかし、それまでに日本語教育はなかった。転校後、父親が病気となり、母親が働きに出る必要が生じたため、同人が家事と父親の看病をすることとなり、小学校4年生からは登校できなくなった。結局、読み書きができないため、現在まで仕事をしたくてもできなかった。現在は、4年半よみかき教室に通っているが、未だに年賀状も書けず、人並みの社会生活が営めない。