道内の自主夜間中学の交流へ向けての準備会まとめ

 昨年から今年にかけ全道各地で開校した自主夜間中学の交流を目指し、「北海道に夜間中学つくる会」が呼びかけた「交流に向けての第1回準備会」が、8月29日(土)北海道教育会館で開かれました。

参加した札幌遠友塾、函館遠友塾、釧路「くるかい」の3自主夜間中学から、開校までの準備や授業運営をしての報告や課題、今後の交流のあり方などを話し合いました。

 「つくる会」からは、工藤慶一共同代表、泉雅人事務局長ほか事務局員9人、札幌遠友塾からは井上大樹事務局長、函館遠友塾からは今西隆人代表、釧路「くるかい」からは賀根村伸子代表と阿部大輔さんが出席しました。

また、開校へ向けどのような準備をしたらよいかたずねたいということで、小樽から相馬さんも参加しました。

 はじめに工藤共同代表が今回の準備会の趣旨説明を兼ねて挨拶しました。−−−「札幌遠友塾はおかげさまで9月20日に20年記念式を行います。札幌遠友塾は本年4月より、教室での授業も実現出来、新たに4つの地域に自主夜間中学ができました。札幌遠友塾15周年は、会場だった市民会館の取り壊しが決まり、次の会場が見つからず、どうしようかとの不安の中で迎えた記念式でしたが、その時とくらべると、20周年記念は自主夜間中学の広がりのなかで迎えることができます」と述べました。さらに、「これまで会場の確保ではずっと悩み続け、また授業内容をどう組み立てたらいいのか、スタッフ間の意見の違いをどう乗り越えていったらいいかも永遠の悩みでした。それらのことを相談し合う場があれば、大きな力になれるのではないかと考えました。全国規模では全国夜間中学校研究会もあり、相談し合う中で、全道的に学びの場を広げていきたい」と述べました。

続いて出席者の自己紹介の後、各地から以下のような報告がされました。


◇札幌遠友塾

現在受講生は82名、スタッフ86名で、一斉授業の3クラスと個別授業のじっくりクラスがある。一斉授業は中学1年生の半ばまでを授業計画にしているが、受講生の学習の進み具合に応じて、授業内容の検討をしている。スタッフは担当クラス中心で動くようにし、教科を担当するスタッフは担当以外の教科の時でも、受講生個々人の学習をサポートできるようにしている。

じっくりクラスは読み書きができない受講生、不登校経験者などに1対1の個別授業をすることを基本に、常時受け入れをしている。

遠友塾の受講から不登校経験者が定時制高校に行くようになった例もあるし、毎年3年修了後に定時制高校への入学者もでている。

また、学校教室を使うようになって使用方法(受付やカギ管理や掃除など)など、スタッフの新たな役割もでてきた。

受講生は高齢者が多く、週1回の授業日では覚えたこともすぐに忘れてしまうことから、今後、授業回数をどう増やすかが課題となっている。


◇函館遠友塾

※資料(「つくる会」会報bSの内容とほぼ同じです)あり。

開校への動機は、「単身赴任で時間をもてあましたため」と言いつつも、札幌遠友塾でのスタッフ経験から函館でも自主夜間中学があったら良いなと思い立った。募集にはマスコミの力を借り、地元新聞社の記者の協力は大きい。その記者は、今スタッフとして活動をしてくれている。

授業は読み書き、算数を中心に社会、理科、英語の5教科。理科や社会は1こま1こま独立した授業で、今回の社会では、選挙があったので当初の授業予定を変更し、各政党の公約を紹介して「選挙に行きましょう」と呼びかけた。その時の社会的な状況に応じて授業内容を組むことを考えている。

塾生(函館遠友塾ではこう呼びます)は当初より増えて現在52名になった。スタッフは35名中、3分の1が現役の教員あるいはOB。学生さんは試験や実習などで忙しいので無理な出席を求めず、社会人スタッフにもできるだけ長く続けてくれることをお願いしている。

会場の総合福祉センターは交通の便がよく、福祉のボランティア登録団体になったことで会場費が無料になった。印刷も紙を持ち込めば無料となり助かる。会場の予約は半年前からなので、受付開始と同時に申し込みが殺到するので大変だが、夜の時間帯は意外に空いている。この会場での来年、再来年の会場確保もできると考えている。

スタッフ会議では、学校教室が使えないかの声も出ている。函館では60年以上前から地域の社会学級活動に教室を開放している歴史があるので、市教委に問い合わせしたが、校区の活動ではないので認められなかった。しかしスタッフに退職校長もいるので、そのつてで使わせてもらえる学校がないかを打診してもらっている。ただ9割方が高齢者なので、交通の便のいい場所を最優先とすると、当面は今の施設を使うことになるのではと思っている。学校教室を使うとなれば、月1回実施している人気の給食もできなくなるので、その迷いもある。

教科については、それぞれ現職教員や退職教員が担当している。教科によっては、教員経験そのままで授業を行い、難し過ぎるとの塾生の訴えがあるが、先輩の先生方に、授業内容を変えるように言うのはなかなか言いづらい面もある。


◇釧路「くるかい」

 ことし5月に開校した。昨年10月に「こんばんは」上映会のポスター掲示を釧教大にお願いに行った際に、講師の添田さん(「くるかい」現事務局長)に会い、学生だった最近まで九州で自主夜間中学の活動をしていたことを知り、釧路で開設の話が一気に進んだ。当初、4月開校の予定だったが、講演会を挟んだので1カ月遅れた。

 学習者(「くるかい」ではこう呼びます)の申し込みが多く、授業を1度ではできないので、火曜日に2回の時間帯に分けて実施している。午後5時15分からと7時からで、遅い方は仕事を終わってからの人が学んでいる。合わせて40人ほどで8つのテーブルに分かれ、1対1のペアで国語、数学、英語、歴史を学んでいる。

 学習者と支援者共に学習部会、行事部会、運営部会、会計部会などを作っており、札幌遠友塾のように全体のミーティングがうまくできていないのが悩み。意見がいろいろだされるが、その調整に火曜日以外の日を取ることが難しいため、集約できないでいる。各部会の打合せを火曜日に集中させると授業にでられないなど、なかなか思うようにいかない。

学習を学習者と支援者との1対1で行う形は、大学生が多いので何とかこなしているが、やはり支援者が教科に得手不得手があるので習得に問題もでてくる。また、ペア以外のつながりが薄くなり、休んだ人をカバーする際、再ペアを組むのに苦労している。

 また学習者自身が「くるかい」の会員となり部会を構成し、支援者はそれをサポートする立場であることが、札幌遠友塾などと違うように感じている。

 教室に市の総合福祉センターの大会議室を使っているが、大変なのは、施設の都合で部屋替えを求められることがあり、その都度学習者に知らせなければならないこと。また1年だけの契約なので、来年どうなるかも心配だ。添田さんのつながりで学校を使ってもいいという話もあるようだが、函館と同じで高齢者が多く、交通の便がよくないと困る。その学校は今の場所よりは不便なので、まずは今の場所を優先していきたい。

 学齢期の不登校生徒を3人受け入れているが、そのことで現職の先生からは市教委との折り合いが悪くなるのではとの懸念もでている。また、支援者の学生は卒業するので、来年も同じように集まるかなど心配ごとは尽きない。

(※なお、「学習者」と「支援者」と呼ぶのは、「くるかい」にくるお互いが「対等の立場にある」との表現であるとの説明がありました。)


この後、休憩を挟んで各報告を受けての話し合いに入り、@授業をどう進めていくかA会場をどう確保していくかBスタッフの協力体制をどう作っていくかなどが、今後の交流を進める課題にあげられました。

加えて、今準備会の呼びかけの趣旨である、受講生相互の交流のあり方としてどんなことが考えられるのかを念頭におきながら、この3点を話し合ったらいかがか、との提案もありました。

これについて以下の背景説明がありました。

札幌遠友塾では、じっくりクラスの桑山さんが全国夜間中学研究大会で半年かけて準備した生活体験発表をした。それを聞いた大阪の守口中学の先生が、それを授業で使ったところ、生徒の何人かが桑山さんに感想や励ましの手紙を送ってくれた。これに対して桑山さんは1人ひとりに丁寧に返事を書いた。こうした交流により、桑山さんは初めて手紙を書くことができるようになり、今ではスタッフに暑中見舞いや年賀状をだしている。

NHKの番組で紹介された伊藤さんのケースも同じだ。伊藤さんはじっくりクラスの作文発表に向けて、スタッフの手を借りながらも生活体験をまとめた。その作文を「えんぴつの会」の見城先生が取り上げ、そこの生徒さんから伊藤さんに励ましの手紙が送られてきた。それにまた伊藤さんがお礼を書くという交流になり、伊藤さんは文章を書くことの大切さを、身をもって知り、書くことの大きな自信につながっている。

今回の交流準備会は、相次ぎ開校した全道各地の自主夜間中学でも、学ぶ者同士のこうした交流ができないだろうかとの思いを込めている、とのことです。


これを受けて工藤代表は、9月20日に開く札幌遠友塾の「20年記念の集い」に受講生の生活体験発表を予定しているので、「全道各地に同じ仲間がいる」との絆を深めるためにも、函館や釧路からもぜひ発表をお願いしたい、と要請。交流していくための返事をいただきました。


討論では、1対1の個別授業の釧路から札幌遠友塾の授業形式への質問がありました。

 同遠友塾から、発足当初から受講生が多数で一斉授業しか選択の余地がなかったこと、これを補うためスタッフが受講生のそばについてサポートしているが、やはり授業が分からない受講生も出てきて十分ではないこと、じっくりクラスでは1対1の授業を基本にしているが、個人にもろにかぶってくるため非常にきついことなどが述べられました。

さらに個別授業の場合、授業内容が個人に任されるので、一人よがりの授業になる恐れがあったこと。実際、数学でとんでもない難しい授業があったことや、英語では難し過ぎて、受講生から再履修希望者がどっと出たこともあった。この反省から授業内容はみんなで話し合うが大事と考え、授業の後に必ずスタッフの5分間ミーティングを行い、今日の授業の問題点を出し合っている、との説明がありました。

また、受講生とスタッフとの信頼関係も大事で、以前、受講生から「私たちを馬鹿にしている」との訴えがあり、もめにもめて当時の国語科のスタッフ全員が辞めたケースも紹介されました。

また注意していることとして、受講生は時にスタッフに個別で別の学習を教えてほしいと要求する場合があるが、個別対応はしないこと。授業は必ず複数で担当することをあげました。釧路の質問に答え、札幌遠友塾の事務局体制やクラス会議、教科部会、全体会議などのあらましなどの説明もありました。

札幌遠友塾では、授業計画については各学年や教科ごとにあるが、3年生の場合、国語科では卒業文集を書き上げる、社会科は「私の願い」をまとめる、英語科は英語で自己紹介を行う、数学は中学1年の半分くらいを終えることを卒業への目安としていることが話されました。

さらに、学びの場が学校に移って教材置き場を使わせてもらえるようになり、教材を運び込まなければならない苦労から解放され本当に助かっている。今は豊富な学校教材を借りるお願いをしていること、学校教室を使うに当たって実施している具体的な管理手順なども話されました。


函館遠友塾からは、

 授業方式は札幌に準じているが理科の授業があり、そこでは模型を作ったり、道南へ植物観察などに行った。また、授業で分からないことがあっても机を並べて勉強する学校の雰囲気を楽しんでもらえればいい、といったスタンスで進めている。座席を固定してスタッフが名前を覚えやすいようにしたことなどが述べられました。

再履修の基準や在籍年数の上限などに決まりはあるのか、についての質問に、札幌遠友塾では特に明文化したものはないが、受け入れ人数の問題も含めながら、スタッフや事務局で話し合って、受講生本人に一番良かれという選択をしている。ただし、その判断は受講生の希望を最優先していることが話されました。過去には学力のある人が再履修で残っていて、授業に先回りして答えるなどかえって授業の妨げになったこともあったようです。

学年進級についても札幌の経験が伝えられました。また、会場の収容人数での問題に絡み、じっくりクラスでは10年単位で学ぶという長い時間でみる必要があるが、本人の授業目的が達することができたと判断されれば、卒業することも検討されなければならない、との返答もされました。


不登校の対応でも論議がありました。
 学校や制服に嫌悪感を持つ不登校になった者が、遠友塾に来るうち、受講生やスタッフとの人間関係から学校に対する嫌悪感が薄れ、向陵中学校での授業を受けることができるようになっている。年配者などさまざまな年代に受講生に囲まれ、何かと頼りにされるうちに、自分の役割を見い出して、学校にいくことができるようになっている。

釧路では、学齢期の生徒が夜間中学にくることで、学校の先生や教育委員会から悪くみられるようになるのではとの懸念もあるのでは、と話し合われた。これらのことは受講生の学びの姿勢にこたえることで、自主夜間中学がその役割を十分に果たすことができるのではないだろうか。そして、自主夜間中学が持っている多世代交流の大切さを確認しました。

そうした点からも、1対1の個別授業だけでは得られない要素が一斉授業にはあり、両方の要素を取り入れるのが良いのではないかということ。個別授業では、受講生の学びに答えられているか分からないこともあり、札幌遠友塾のじっくりクラスでも、授業の様子をみながら学期ごとにスタッフの入れ替えをするなどしている。

釧路の緊急の課題となっている会場確保の問題では、支援できている校長との個人的なつながりで学校を使う話し合いを行っている。しかし、そこは交通の便が悪いため、交通の便の良い学校をかりたい。市教委からは「つながりのできた学校」が教室を借りやすいではとの助言もあって、交通の便の良い学校とは、借りる交渉はしていない。

教室を借りるには学校だけでなく教育委員会の了承が不可欠で、委員会には正面から「便利な学校」使用の要望を出していくのが筋なこと。「つくる会」としては既に道教委に協力をお願いし前向きの回答を得ていることや、札幌市教委とは各地から問い合わせがあれば情報公開する約束をしている。これらのことを踏まえ、現地で要望をあげ交渉を重ねるよう助言をしております。遠友塾や「つくる会」がこれまで行ってきた一連の行政要望や議員などへの協力要請の活動を説明し、市議会や教職員組合などに協力をお願いしてきたことなどが話し合われました。そして、何よりも最大の力は受講生の思いと発言で、一緒になっての運動が大きな力になったことなどが伝えられました。表面には出ないがいろんな人のつながりが支援の輪を広げ、底力になったこともあわせて伝えられました。


一方、函館は今以上に便利な場所に学校があるか、その学校を貸してもらえるかの要望をしていくことなど、みんなと協議しながら時間をかけて検討して行きたいとのことです。


最後に今後の交流会準備会の持ち方については話し合い、@差し迫った釧路の会場確保について協力体制を作るA各自主夜間中学の近況を伝える「北海道自主夜間中学のたより」を作る(学期ごと)B札幌を手はじめに、各地の自主夜間中学を廻り授業日を見学して交流会を持つ(年に2回)ことなどを申し合わせました。

                              以上

資料


「函館遠友塾」の活動について

1,設立の経韓

 札幌遠友塾に8年間かかわってきた今西が道南の七飯町への転勤を機に、094月からの函館遠友塾開校を目指し、088月より準備に取りかかりました。北海道新聞、函館新聞、朝日新聞などの報道機関や大学・専門学校講師の協力を得、塾生及びボランティアスタッフの希望を募ったところ、入学式までに入学希望者47名、ボランティアスタッフ36名の申し出がありました。入学説明会に参加しながら入学式当日欠席したり、入学式後に新聞などを見て申し出があった人が数名おり、最終的な人数は8月末現在52名です。


2、授業内容について

 教科は、国・数・社・理・英の5教科で145分授業を2コマ行います。授業開始は1730分、終了は1905分です。

 年間授業時数は、国語20、数学20、社会11、理科11、英語15時間の予定で、一般の中学校と同じく夏・冬・春休みを設け、年間授業日数は39日。授業日は基本的に水曜日の予定ですが会揚側の都合により他の曜日になることもあります。

 授業内容については、高校を卒業している方も数名いますが,函館遠友塾の設立のねらいとして当然ながら、国・数・英に関しては基本の基本から始めています。ただし、例えば国語であれば「あいうえお」の勉強の中にも、どうして「あ」という文字ができたとかなど、大人向きのエッセンスを加えるなど、飽きない授業内容にすることをスタッフ全体で確認しています。


3、塾生について

 性別は、ほぼ女性が90%を占めています。年代別では10代・20代・30代・50代が各1名、60代が13名となり、70才以上の方が約65%となっています。

 地域は90%が函館市内で、他に北斗市、七飯町からの方です。なかには、高齢者入居施設から一緒に(4名)で来られる方達もいます。

 小中学校時の就学状況につては、アンケートによると70代以上では戦争時の混乱、援農・勤労奉仕などにより学校に行けなかった方がほとんどで、60代以下の方は、経済的な問題や病気などによるものがほとんどです。


4、会場について

 函館市総合福祉センターを利用しています。利点としては、まずボランティア団体として登録することにより会議室(教室)の利用料が無料となり、また用紙を持参すれば印刷機を無料で使用することができます。また、JR函館駅より徒歩10分の距離にありセンター前にバス停があることも便利な点です。

 しかしながら、6ヶ月前の朝9時からの先着順での予約受付であり、さらに福祉センター主催の会議が優先的に入ることがあり、今現在12月までの予約の内、約半数が火曜日の実施となり曜日が一定しないという問題があります。

 函館市では、「社会学級」という制度(62年の歴史があるそうです)があり、放課後を地域・校区の社会的な活動に小中学校の教室を一般の団体に開放しています。遠友塾としても、利用が可能かどうか問い合わせたところ、函館市教育委員会生涯学習課より、不可能との返答を得ています。(今後、再度要求の予定)


5、費用について

 用紙代、通信費などとして年間二千円を徴収しています。会場代、印刷代が無料のためこの金額で可能と判断しました。また、後述するように月に一度の給食を実施し、そのための費用も年間二千円を徴収しています。


6、給食について

 函館市総合福祉センターには技能訓練室が有り、そこを利用して各月の最終週に簡単な献立で給食を実施しています。事務部の中に給食担当をおき、係を中心にメニュー、買い出しなどを行います。実際の調理では、スタッフの他、塾生にも声かけをして一緒に作業をしています。


7、当面の問題点

 今現往半年先の会場確保はできていますが、それも確実なものではなく、さらに来年、再来年となり教室が3教室必要になった場合のことが問題です。先に書いた「社会学級」での利用について函館市教育委員会に働きかけていく必要性も感じています。


(文責 函館遠友塾代表 今西 隆人)