<09旅立ち>七飯養護学校教諭の今西さん
自主夜間中学「函館遠友塾」15日入学式*空白の時間埋めたい
道南初の開設に尽力*「一人でもやらなければ」

2009.04.10 北海道新聞朝刊地方


 道南初の自主夜間中学「函館遠友塾」が十五日、函館で入学式を迎える。開設を呼びかけた七飯養護学校教諭の今西隆人さん(52)=森町赤井川=は「戦争や病気で義務教育を受けられなかった人たちの空白の時間を埋めたい」と、受講生との出会いを楽しみにしている。(上野香織)

 「戦時中は勤労奉仕と援農で、英語はローマ字を学んだだけだった」「母が倒れ畑仕事をしなければならず、小学五年までしか学校に行けなかった。開校が楽しみです」

 函館遠友塾の受講生は函館、北斗、七飯などに住む二十歳から八十七歳までの四十二人。入学申込書には、学ぶ機会を失った過去の経緯や、塾への期待を込めた言葉が並ぶ。

 今西さんは札幌出身。札幌の中学校の特別支援学級に勤務していた二〇〇〇年、新聞記事で自主夜間中学「札幌遠友塾」を知り、協力を申し出た。以来、〇八年までボランティアで数学と英語を教えた。いずれも専門外の教科。仕事の後、教え方を勉強しながらプリントを作った。

 受講生のほとんどが、戦時中に学ぶ機会を奪われたお年寄りたち。授業終了時に拝むように手を合わせる人もいた。感謝されるたびにやりがいを感じた。国語や社会の授業では、受講生が戦争体験を話してくれた。「人生の先輩ばかり。こちらも教わることが多かった」

 昨年四月に七飯養護学校に転勤した。当初は夜間中学の開設は思っていなかった。だが生活が落ち着くと「需要は絶対にある。一人でもやらなければ」と思い直した。新聞でスタッフを募集したところ、退職教員や会社員らが集まった。現在、三十七人のスタッフと、最後の準備に奔走している。

 札幌遠友塾の工藤慶一代表は、札幌時代の今西さんを「九九の表を作ったり、理解度に応じて何度も復習の時間を設けたりと、熱心な先生だった」と語る。さらに「夜間中学は地方でこそ必要。函館での開設は本当にうれしい」と喜ぶ。

 授業は、原則毎週水曜日夜、函館市総合福祉センター「あいよる21」(若松町)で行う。札幌での経験を生かし、学芸会やクリスマス会などの行事も考えている。札幌時代にはできなかった給食も月一回提供する。

 公立中学は利用できず、福祉センターも会場を押さえられない場合があるなど、さまざまな問題はある。しかし、受講生と共に学ぶ日々が待ち遠しいという。

 受講料は年間二千円。定員約五十人。受講の問い合わせは今西さん(電)080・5598・5608へ(平日午後四時以降)。


北海道新聞社