<真相深層>
生徒200人超 札幌、旭川に続き函館、釧路にも*自主夜間中学 続々と*公立化 行政の腰重く
2009.04.15 北海道新聞朝刊全道
戦後の混乱や家庭の事情などで、学習機会を得られなかった人たちが通う自主夜間中学の活動が全道に広がってきた。二十年目を迎える札幌遠友塾、昨年誕生した旭川遠友塾に加え、今春は函館と釧路に新設され、生徒は全道で二百人を超える。全国には公立施設もあるが、道内では「需要がない」(道教委)と行政の腰は重く、いまだ市民団体に頼らざるを得ない。ただ、相次ぐ設立は「学びたい」という人の存在を確実に裏付ける。(札幌圏部 本庄彩芳)
五月に開校する釧路の自主夜間中学「くるかい」。一月に生徒募集を始めたところ、入学希望者は五十六人に上った。「ここまで多いとは想像していなかった」と、代表で道教大釧路校講師の添田祥史さん(30)は驚く。添田さんは大学院生だった昨夏まで、北九州市の自主夜間中学のスタッフを務めた。釧路でも需要の多さは同じだった。
十五日に入学式を迎える「函館遠友塾」も同様だ。新入生は四十六人。設立準備を進めた代表で、渡島管内・七飯養護学校教諭の今西隆人さん(52)の予想の二倍以上に上った。今西さんは「学びたい人の多さを実感した」。
入学希望者は、勉強の基礎を学ぶ幼少期に戦争があった七十歳以上が多い。「読み書きが苦手」「割り算が分からない」−。「勤労奉仕や子守で、勉強の余裕などなかった」と函館市内の七十代の女性は振り返る。
だが、いま学習意欲は高い。例年約八十人の生徒が在籍する札幌遠友塾。週一回の授業に、以前は函館や釧路からJRで通った人もいた。代表の工藤慶一さん(60)は「十九年間で約三百八十人が卒業したが、再入学する人もいる」と、生徒の熱心さを話す。
これほどニーズがある中、関係者には公立化を求める声が根強い。工藤さんは二年前、「北海道に夜間中学をつくる会」を結成。道教委や札幌市に公立の必要性を訴え続ける。
自主夜間中学の運営は、生徒の授業料のほか賛助会員からの寄付などで賄うが、会場費や教材費などで、これらはすぐに消える。
札幌市の支援で今春から市立中学の教室を利用する札幌遠友塾の場合、教室利用料だけで年十二万円。市教育文化会館の会議室を借りていたこれまでの年五十五万円より軽減されたが、民営は楽ではない現実がある。
実際、全国にある公立夜間中学は八都府県、三十五校。自主は約二十校だが、自治体が運営を支援する例も。例えば北九州市は市内二校に小中学校の教室を無償提供、年間各百五十万円の補助金を支出する。高知市は小学校の職員宿舎を改造、専用校舎として市民団体に提供している。
だが、道内では公立化への行政の動きは鈍い。公立夜間中学の設置は原則、市町村が担う。道教委が二〇〇七年に全道の市町村教委に設置要望の調査をした際、要望は「札幌市だけだった」という。これを基に道教委は「需要はないと判断した」(義務教育課)と強調。文部科学省も「各自治体がニーズを反映してから考えること」と原則論を出ない。
当の自治体はどうか。札幌市の上田文雄市長は十四日の定例会見で、公立化について「需要を長期的にどこまで見込めるかの検証を今後進める」としたが、具体策には触れなかった。
自主夜間中学は、いわば戦争によって奪われた「学ぶ機会」を取り戻す取り組みだ。
だが、道教委義務教育課は「設置を求める声が多いなら、市町村教委にもっと要望が届くはず。それは聞こえてこない」とする。
新年度、全道四カ所の夜間中学に通う生徒は計二百二十人。道教委はこの人数の重みをどう受け止めるのか。
北海道新聞社