◎企画「わたし学びます」〜函館遠友塾〜/黒田正二さん(88)
多くの人が家路を急ぐ午後5時20分、函館市若松町にある市総合福祉センターの一室で、「函館遠友塾」の授業が始まる。
壁際までびっしりと並ぶ長机に50人余りの男女がひしめいて座る中、ひときわ高く手を挙げる、背筋をしゃきっと伸ばした男性がいる。塾生最高齢の黒田正二さん(88)。夜間の“学びの場”の「学級代表」のような存在だ。
「分からないことが1つでも分かると楽しい」。眼鏡の奥で目じりの下がった優しい目をまたたき、屈託なく笑う。
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1921年、函館生まれ。5人きょうだいの二男。胃腸が弱く、療養のため小学1年で青森の親せきの家に預けられた。小学6年で実家に戻り、当時の函館宝小に転校。旧制中学高等科に進んだが、34年の函館大火で学校も家も焼け、谷地頭に残った小学校に通った。転校、大火の度に教わる内容や教員が代わった。一貫した教育を受けたかった、中途半端になってしまった、との思いが今でも残っている。
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ある日の遠友塾―。国語の時間。「漢字の左側に書くのは『へん』。右側は『つくり』と呼びます」。スタッフの説明に耳を傾けながら、黒田さんは「はい知ってますよ、『へん』だね」「『つくり』も大丈夫」と相づちを打つ。一つ一つ確かめるように。そして丁寧に、几帳面な文字でノートに書き写していく。
「ちょっと教えてもらえるかい」。分からないことがあればスタッフにすぐ尋ねる。納得がいくまでとことん質問し、スタッフが答えに詰まると「あんたでも分からないことがあるのかい」と愉快そうに鋭く切り返す。
もちろん予習は欠かさない。総選挙前の社会科では政党一覧が書かれた新聞の切り抜きを持参した。全政党名を問うスタッフの質問にさっと手を挙げ、「カンペ」を見ながら次々と回答し、「ヤマが当たったな」と満足そうにニヤリとした。学びに対する意欲は誰にも負けない。
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戦争、貧困、いじめ。さまざまな事情から、義務教育を満足に受けられなかった人がいる。そうした人たちのため、4月に民間で運営する自主夜間中学「函館遠友塾」(今西隆人代表)が開校した。そこに集う塾生の多くは60―80代。学ぶって何だろう。目を輝かせ、心から勉強を楽しむ塾生たちを訪ねた。(新目七恵)
【函館遠友塾】七飯養護学校の今西隆人教諭の呼び掛けで2009年4月に開校した。戦争や病気、家庭の事情などで義務教育を十分受けられなかった人を対象に毎週水曜日函館市総合福祉センターで実施。教科は国語、数学、理科、社会、英語で、1日2教科を学ぶ。3年間でほぼ中1までの内容を修了予定。来年度の入塾生とボランティアスタッフを募集中。見学は随時可。問い合わせは今西教諭TEL080・5598・5608(平日午後4時〜同8時)。
函館新聞 2009/11/22
http://www.hakodateshinbun.co.jp/topics/topic_2009_11_22.html