2007年10月1日から連載されたkametarou_2005さんのブログより転載いたします。(kametarouさんの了解は得ております。)
教育改革に関する提言案(1)
「北海道フリースクール等ネットワーク」が諸事情を考慮して、近く「不登校、発達障害をもつ子どもたちなどマイノリティが大事にされる教育を実現するための提言」を発表する予定であるが、これに関してのメモである。(もしご意見等あれば氏名等を明記して次にメールしてください。kametarou_2005@goo.jp)。
多くの教育改革案が示される。その多くは、90%の子どもが対象である。だから、不登校の子どもたちや発達障害をもつ子どもたちをサポートをしているフリースクール、あるいはホームスクーリングに関わる人たちへの視点などは文科省の一部や民間の教育運動をしている心ある一部の人たち、それに関係する父母などを除けば、ほとんどない。これは教育行政機関も学校現場も教員組合も民間教育運動もあまり異ならない。
ちなみに、教育組合が行う「教育研究集会」で「不登校」分科会はあるが、その運動方針で「フリースクールへの公的支援を求めよう」などはまだ見ていない。私学助成の運動はあるが、そのテーマはまだ俎上にのらない。
特別支援教育が云々されるが、「カネも出さないで強調されても現場は困る」というし、不登校問題については道教委や市教委を先頭にして「民間と連携を深める」と絶えずいうが、「そのために実践検討の協議をしたい」と提案しても現場の先生は全くといっていいほど無関心である。「それどころではない」といっているのが目に浮かぶ。
しかし無理もない。問題意識のある人が積極的に発言していくしかないのだろう。私の今の関心はそこにある。さまざまな親の会、フリースクールの父母、特別支援教育の周辺にいる子どもの父母たち、そして研究者や教育行政(文科省から自治体の教育委員会まで)の人たちの中で問題意識を共有することのできる人たちと提携することになるだろう。そのネットワークをはっきりさせていくことによって政治家にも働きかけていくことにする。今、与野党を問わず「教育改革」を口にするが、私たちの声にしっかりと耳を傾ける政治家はいるにちがいない(と思いたい)。
先に記した「マイノリティ」の意味は「少数者」である。しかしこの子どもたちを軽視して何が教育改革であろうか。ややもすれば、エリート教育的なものに関心が寄せられる。しかし、1割の子どもたちを大事にしないで教育の民主主義はないし、子どもの世界のセーフティネットもない。
以上が「はじめに」相当の趣旨である。
提言(案)の本文に相当する第1章。全部で5章。
1.学校現場と行政の「不登校」認識とその対策の見直し
いうまでもなく「不登校」の要因は多様である。教育行政機関の報告では、不登校は学校、家庭、本人に起因する類型をあげる。だが、それ自体不登校の要因は多様であることを再確認しているに過ぎないのではないだろうか。
(1) すべての子どもが「教育をうける権利」をもっているというがそれは学校教育法第1条校の学 校に限定することは現実に合わない。
(2) 「不登校の解決」をただ学校復帰に限定したり、「不登校ゼロ作戦」に示される方策はむしろ子どもたちを苦しめ逆に引きこもりのきっかけになったりしている。
(3) スクールカウンセラーの活用についても、不登校の子どもや保護者の気持ちと意見を尊重し、 安易にカウンセリングを受けることが不登校打開の施策であるとの認識は改めるべきである。
(4) いわゆる発達障害をもつ子どもたちも少なくないことがはっきりしているし、この子どもたち もまたフリースクールを自分の学びの場・居場所にしている。表面的にはこのような場合もまた「不 登校」になっている。従って、「不登校」でくくることのできる範囲は一様ではない。
提言(案)の本文に相当する第2章。全部で5章。
2.フリースクールや「ホームスクーリング」を含めて多様な教育のしくみの評価
社会の進歩、社会の高度化が進んでいる。これは一人ひとりの子どもだけでなく大人を含めて多様な行動、多様な育ち方を招いている。また表される個性もまた多様である。そして複雑な人間関係を要求される社会で、心の持ち方もまた複雑で繊細さが求められている。従って、一般の学校でなく、小規模で一人ひとりのペースに合ったサポートを期待できるフリースクールや、時には「ホームスクーリング」が必要となる場合もある。
参照法令の条文・教育基本法第4条
すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。
国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。
(1) 「登校しない子ども」(不登校の児童生徒)は「問題の子ども」ではない。それぞれの方法で生き方や育ち方を探っているのだとの評価を基本におくこと。
(2) このことは同時に「学齢期間」への見方もまた柔軟であることを求める。成長するスピードも その契機もひとそれぞれという時代になっている。○歳で入学、○○歳で卒業というワクではおさ えられない子どもの成長のバリエーションを知らなければならないし、学ぶ場も外部の機関ではな く、ホームいうこともあり得ることを評価する。
提言(案)の本文に相当する第3章。全部で5章。
3.市民・民間が運営するフリースクールへの公的な支援
不登校の子どもは、例えば中学校では35人に一人になっていること、そして民間の教育施設(フリースクール)に通っている子どももまた少なくないことは周知のとおりである。そしてこのフリースクールが自分の一番適切な学びの場・居場所であることを知った子どもも少なくない。
しかしフリースクールの現実は経営が厳しく非常に不安定である。ここの職員が安心して子どもの教育に当たることのできるような措置を国及び自治体は行う必要がある。
中教審答申「新しい時代の義務教育を創造する」の第U部第1章(3)「義務教育に関する見直し」に関連して次のように指摘している(2005.10.26)。
「…不登校等の児童生徒について、一定の要件のもとで、フリースクールなど学校外の教育施設での学修を就学義務の履行とみなすことのできる仕組み等について検討することも求められる」。
(1) 国と自治体は不登校の子どもをサポートしているフリースクールへの公的な支援の可能なあり方を総合的に検討する。
(2) 現在、文科省の進めている「不登校への対応におけるNPO等の活用に関する実践研究事業」を継続・拡充し、希望するフリースクール等に対して最大限に適応する。
(3) 公的な教育・社会資源(学校、博物館等、体育館、その他)を、費用や基準を含めて大幅に活用しやすくする。
(4) 障害のある子どもへの個別支援スタッフの公的補助による配置を行う。これは特別支援教育の応用でもある。
提言(案)の本文に相当する第4章。全部で5章。
4.父母負担軽減のための教育バウチャーの導入
2006年の文科省発表の統計によると、公立学校在学者1人当たりの国と地方自治体の教育支出は、高校生112万円、中学生102万円、小学生90万円(いずれも年額)である。
不登校となって在籍学校以外の民間施設(フリースクール)から支援を受けている場合、その費用は保護者が負担している。その点で、公立学校への税負担をしている父母はいわば「二重負担」を余儀なくされているといってよい。
そしてフリースクール自体上に記したように公的支援がない。
フリースクールは実質的には不登校の子どものセーフティネット機能をもっており、公的な教育予算を配分すべきである。
この点で、ここ数年話題になってきた「教育バウチャー」制度(バウチャーとは一種のクーポン)は、しばしば指摘されるように学校間の競争を強め、学校間格差を激しくするという批判が根強くある。これとは逆に、私たちはこの制度を教育費負担の格差、父母負担軽減のための仕組みとして考慮することが十分に可能であると考える。
文科省内での「教育バウチャーに関する研究会」
(第3回)議事要旨(平成18年3月10日9時30分〜12時)
競争という観点ではなく、不登校児童生徒やいわゆる落ちこぼれの生徒達に対するケアの手段として、バウチャーを検討することは意味があるのではないか。
認可されたフリースクールのようなものに、バウチャーを配るということを検討する余地はある。
政策的な誘導の手段としてバウチャーを実施するのであれば、コストの半額以上の額のバウチャーを支給するなどしなければ意味がなく、少額のバウチャーには政策的な意味はほとんど無いと言うことになろう。しかし、不登校児童生徒などに対するバウチャーであれば、安い額のバウチャーであっても効果があるかもしれない。
(1) 在籍する小中学校で不登校となり、フリースクール等で支援を受ける場合、在籍校から適切な額を保護者の指定で移転できるようにする。「フリースクール等」の中には、一般にいうフリースクール、教育支援センター等の公的不登校支援施設、ホームスクーリングなどを進めている民間不登 校支援施設を含む。
(2) 上記を可能にするため、在籍小中学校とフリースクール等の協定等の方法、予算移転の方法などについて検討を進める。例えば、在籍小中学校に指定された教育バウチャーは、施設整備関連分 と教育研究費関連分を区分し、前者を在籍小中学校に留保、校舎をフリースクール等へ予算移転す るなどが考えられる。その場合、在籍小中学校とフリースクール等が直接協定等を結んで予算移転する方法と、いったん在籍小中学校が教育委員会へ返還し、教育委員会がフリースクール等へ配分する方法が考えられる。
提言(案)の本文に相当する第5章。全部で5章。
5.教育行政機関や医療・相談機関との連携
ただ不登校問題に限らず、文科省と教育行政機関は常に「民間との連携」を強調する。ただそれは端的にいえば「学校復帰」に民間のフリースクールがどの程度関わることができるか、を問題意識にしているに過ぎない。現在、地域社会が崩れ地域との人間関係が疎遠になっているとき、教育にかかわる全てのものが連携することが求められる。
参照法令の条文・教育基本法第3章「教育行政」
第16条
2 国は、全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るため、教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない。
3 地方公共団体は、その地域における教育の振興を図るため、その実情に応じた教育に関す施策を策定し、実施しなければならない。
4 国及び地方公共団体は、教育が円滑かつ継続的に実施されるよう、必要な財政上の措置を講じなければならない。
第17条 政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。
2 地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない。
(1) 道と市は「不登校等の施策検討委員会」(仮称)を設置し、道と市は総合的に可能な方法を検討 する。この委員会には、当然教育・学校現場の人とともに不登校を体験している子どもの親やフリ ースクールの関係者も含まれる。
(2) フリースクールに通学する日数を登校日数としてカウントする。民間の「メンタルフレンド」の支援を得ているような子どもの場合も、フリースクール通学に準じた措置をとる。
(3) 相談指導学級や適応学級の新設・拡充の場合、民間教育施設(フリースクール)をこれに当てる等、連携の実を強める。
完
※ 東京シューレ提案の「教育多様化のための提言」をベースにしました。